会社の福利厚生の一環として、役員や従業員に健康診断や人間ドックを受診させることはよくあります。

そもそも事業者は、労働安全衛生法で労働者に対し、健康診断の実施を義務付けています。

なので、本来であれば会社が負担した健康診断費用や人間ドックの費用は福利厚生費として会社の経費(損金)になります。

しかし、取扱を間違えると思わぬ課税がされることがあります。

今回は、健康診断費用や人間ドック費用の税務上の取扱についてご説明させていただきます。

従業員全員を対象としたものであれば課税なし

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社長
今回は健康診断の話っていうことだけど、健康診断の費用まで課税されることってかあるのか?
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小林税理士
まあ、基本的には健康診断費用や人間ドック費用は、冒頭でもお伝えしたとおり、法律で義務付けられていることから、法人が負担すべきものですので本来給与課税はあり得ません。
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社長
そうだろ。こんなのでいちいち給与課税だとか何だとか言われたら、俺が従業員だったら健康診断なんか絶対受けないぞ。

特定の者だけを対象とした場合には、課税となる。

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小林税理士
ただし、従業員全員を対象としたものでなく、役員だけとか部長以上の職についている者など、全従業員が受診できないのであれば、会社が特定の者に利益を与えていることになるので課税となってしまいます。
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社長
このあたりの考え方は、他の現物給与の考え方と一緒だな。
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小林税理士
ええ、そうですね。
社長のところは、もう健康診断終わったんですか?
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社長
うちはだいたい毎年6月に受けてるから、もうそろそろ結果来てると思うぞ。

年齢による条件を設定するのはOK

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社長
あ、でも会社によって通常の健康診断の他に35歳以上だとか、40歳以上とか年齢で区切って、一定年齢以上は人間ドックも受診出来るところもあるって聞いてるけど、それって給与になっちゃうのか?
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小林税理士
ああ、よくありますよね。
これについては、国税庁の質疑応答事例が参考になります。

人間ドックの費用負担
【照会要旨】
 A社では、社内規程を設け、役員及び使用人の健康管理の目的で、全員について春秋2回定期的に健康診断を実施しているほか、成人病の予防のため、年齢35歳以上の希望者の全てについて2日間の人間ドックによる検診を実施しています。この検診は、会社と契約した特定の専門医療機関においてベッド数が確保できる範囲内で順次実施し、その検診料を会社で負担することとしていますが、この人間ドックによる検診を受けた人に対して、会社が負担した検診料相当額を給与等として課税すべきですか。
【回答要旨】
 給与等として課税する必要はありません。
 役員や特定の地位にある人だけを対象としてその費用を負担するような場合には課税の問題が生じますが、役員又は使用人の健康管理の必要から、雇用主に対し、一般的に実施されている人間ドック程度の健康診断の実施が義務付けられていることなどから、一定年齢以上の希望者は全て検診を受けることができ、かつ、検診を受けた者の全てを対象としてその費用を負担する場合には、給与等として課税する必要はありません。
【関係法令通達】
 所得税基本通達36-29

国税庁HP質疑応答事例・源泉所得税「人間ドックの費用負担」より
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小林税理士
ここでのポイントは、
・健康診断は、全従業員が受診している。
・一定年齢以上であれば人間ドックも受診できる。
・受診する人間ドックは一般的に実施されている程度ものであること。
これらの条件が揃っていれば、一定年齢以上の者が会社から利益を受けているということにはなりません。
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小林税理士
参考ついでに上記質疑応答事例の根拠となった関係法令通達も見てみます。

しかし、多額のものは認められない

所得税基本通達36-29(課税しない経済的利益……用役の提供等)
 使用者が役員若しくは使用人に対し自己の営む事業に属する用役を無償若しくは通常の対価の額に満たない対価で提供し、又は役員若しくは使用人の福利厚生のための施設の運営費等を負担することにより、当該用役の提供を受け又は当該施設を利用した役員又は使用人が受ける経済的利益については、当該経済的利益の額が著しく多額であると認められる場合又は役員だけを対象として供与される場合を除き、課税しなくて差し支えない。

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小林税理士
質疑応答事例の【回答要旨】のなかに「 一般的に実施されている人間ドック程度 」とありましたが、逆にいえば多額のものであれば認められないということになります。
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小林税理士
「一般的」とは、相場と考えて良いと思います。
だいたい2日コースの人間ドックですと、いろいろな人間ドックのホームページを見ている限り、6~7万位が相場のようです。
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社長
多額だと認められない・・・。
このあたりの考え方は、前回の社員旅行費用の考え方と一緒だな。

ひとり会社でも認められるか?

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社長
役員だけとか特定の者だけ受診するのはダメ、高額だとダメって社員旅行費用と扱いが似てるということは、社長1人だけの会社なんかの場合、社長の健康診断費用は認められないのか?
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小林税理士
ここは、難しいところだと思います。
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小林税理士
社員旅行のように純粋に会社の福利厚生の一環として行われているものと、会社に受診させる義務がある健康診断費用とを一緒に考えるべきではないと思います。
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小林税理士
ただ、非課税となる要件の一つに、全従業員を対象としていることとありますが、従業員のいない社長1人だけの会社はこれにあてはまらいのではないかと考えるのが一般的です。
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小林税理士
しかし、近い将来従業員を雇用することを見越して就業規則を作成し、健康診断について規定しておくことで認められる可能性は出てくると思います。
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社長
そうか、難しいのか。
じゃあ、君のところは経費にならないんだな?

個人事業主の健康診断費用は必要経費にならない

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小林税理士
僕の場合は、そもそも個人事業主なので健康診断費用は必要経費にならないんですよ。
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小林税理士
従業員を雇っていれば、従業員の分は必要経費になりますが。
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社長
個人の場合は、経費で落ちないんだ。
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小林税理士
ええ、といっても僕の場合、豊島区の無料で受けられる健康診断を受診しているので、そもそも経費は出てないんですけどね。
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小林税理士
ちなみに結果は、要特定保健指導でした。
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社長
メタボ予備群かよ。
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小林税理士
あ、社長のもそこに結果届いてるじゃないですか。
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社長
おい、勝手に見るなよ。
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社長
結果はどうなってるんだ?要精密検査か?
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小林税理士
いえ。
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社長
要治療か?
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小林税理士
いえ。
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社長
要経過観察か?
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小林税理士
いえ。
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社長
じゃあ、なんだよっ!!
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小林税理士
余命3ヶ月です。
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社長
くだらねーわwww
そんな診断結果出るかよwww

消費税の取扱は?

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社長
で、話はもう終わりか?
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小林税理士
あとは、消費税ですよね。
人間ドックや健康診断って、社会保険診療じゃないんですよね。
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社会保険診療の場合は、消費税はかからないので課税仕入れにならないんですけど、健康診断や人間ドック費用は課税仕入れになります。

健診費用を従業員に支給した場合は?

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社長
あとほかには?
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小林税理士
あと最後に間違えやすい点として、何らかの都合で健康診断を受診できなかった従業員に対して、会社が診断費用分の現金を支給した場合には、支給を受けた従業員はその分の給与課税がされてしまいます。
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社長
ああ、それ結構大事だな。
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小林税理士
健康診断費用や人間ドック費用は、会社が受診機関に直接費用を支払わなければなりせんので注意が必要です。