今回は、個人でアパートを購入した場合の土地と建物の購入価格の区分の方法についてお話させていただきます。

なぜ区分が必要か?

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小林税理士
個人でアパートを購入された場合って、売買契約書に土地と建物の価格が区分されて記載されていないことが多いんですよね。
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社長
法人で購入した場合には分かれてるのか?
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小林税理士
法人の場合も価格は分かれていないのですが、購入価格のうちに含まれる消費税の額が記載されているので、逆算して計算できることがほとんどです。
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社長
分かれて記載されていなかったからって何か不都合がある?
売買契約書に土地と建物の価格が区分されていないと

・減価償却費の計算ができない。
・消費税の納税義務者の場合、消費税の計算ができない。

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社長
何で?土地を含めたとことで減価償却しちゃったっていいじゃん。
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小林税理士
それは、さすがにダメでしょwww
土地は、価値の変動はあっても、減価(使用による劣化など)はないので。

土地建物を一括取得した場合の区分

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小林税理士
土地建物を一括取得した場合の取得価額の区分は、通達では以下のようになっています。

(土地等と建物等を一括取得した場合の土地等の取得価額の区分)
租税特別措置法通達35の2-9 土地等を建物等と一の契約により取得した場合における当該土地等の取得価額については、次によるものとする。(平21課資3-5、課個2-14、課審6-12追加)
(1) 当該土地等及び建物等の価額が当事者間の契約において区分されており、かつ、その区分された価額が当該土地等及び建物等の当該取得の時の価額としておおむね適正なものであるときは、当該契約により明らかにされている当該土地等の価額による。
(2) 当該土地等及び建物等の価額が当事者間の契約において区分されていない場合であっても、例えば、当該土地等及び建物等が建設業者から取得したものであってその建設業者の帳簿書類に当該土地等及び建物等のそれぞれの価額が区分して記載されている等当該土地等及び建物等のそれぞれの価額がその取得先等において確認され、かつ、その区分された価額が当該土地等及び建物等の当該取得の時の価額としておおむね適正なものであるときは、当該確認された当該土地等の価額によることができる。
(3) (1)及び(2)により難いときは、当該一括して取得した土地等及び建物等の当該取得の時における価額の比によりあん分して計算した当該土地等の金額を、当該土地等の取得価額とする。

通達による土地建物の区分の方法

(1)と(2)は、価額がおおむね適正であることが前提として
(1)当事者間で決めた価額がある場合・・・その価額
(2)当事者間で決めてないが、何らかの方法で価額が確認できる場合
                 ・・・その価額
(3)(1)又は(2)により難い場合・・・時価の比で按分

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小林税理士
(1)は、当事者間の契約で価額が決められていて、その価額が適正であれば、その価額を取得価額とするということです。
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社長
でも、個人で購入した場合、価額の区分って契約書に書かれていないんだろ?
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小林税理士
ええ、そうですね。なので(1)は使えないですね。
(2)もあまり現実的ではないですね。
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小林税理士
そうすると土地建物の価額の区分がされていない場合には、(3)の方法が一般的かと思います。

実務上の区分の方法

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社長
でも(3)って、時価の比で按分っていうけど、時価なんてわかんねーだろ。
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小林税理士
そうですね。土地は分かったとしても建物なんかは不動産鑑定士に費用払って鑑定してもらわないとわからないですからね。
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社長
金額分けるためだけに、そんなコスト掛けないだろ。
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小林税理士
ええ、なので実務的には以下の方法で計算して区分しています。
実務上の区分の方法

(1)固定資産税評価額で按分する方法
(2)建物の標準的な建築価額で算定する方法(差額で土地の価額を求める)
(3)路線価で土地の価額を算定する方法(差額で建物の価額を求める)
(4)(2)の方法で算定し建物の価額と(3)で算定した土地の価額を基に按分する方法

(1)固定資産税評価額で按分する方法

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小林税理士
土地建物の売買代金を、土地建物の固定資産税評価額で按分する方法で、計算方法としては一番簡単な方法です。

例)購入価額5,000万円のアパートの場合

上記アパートの固定資産税評価額

 土地 3,500万円

 建物  500万円

按分計算

土地部分:5,000万×3,500万/4,000万=4,375万・・・①

建物部分:5,000万-①=625万

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社長
確かに計算は簡単そうだな。
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小林税理士
ええ、ただこの方法だと区分所有建物(分譲マンションの一室など)は別として、土地の方に価額が多めになりやすいといったことがあります。
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社長
別にいいじゃん。
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小林税理士
減価償却費として計上できる経費が少なくなってしまいますよ。
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社長
ああ、そうか。
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社長
で、固定資産税評価額ってどこで調べるんだ?
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小林税理士
売主から固定資産税の納税通知書のコピーをもらうか、もらえなければ、その購入した不動産の所在地の市役所なり区役所なりにいって、固定資産税評価証明書を取得することになります。

(2)建物の標準的な建築価額で算定する方法

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小林税理士
2つ目の方法は、先に建物の価額を「建物の標準的な建築価額表」に基づいて計算し、土地建物の購入価額から計算した建物の価額を差し引いて、土地の価額を計算するという方法です。
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社長
よくわからんし、「建物の標準的な建築価額表」 なんてどこで手に入れるんだ?
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小林税理士
国税庁のHPなどで入手できます。
建物の標準的な建築価額表 」で検索すればすぐ手に入りますよ。
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小林税理士
まず、「1建物の標準的な建築価額表」で建築年と構造を調べて、あてはまる㎡あたりの建築単価も求めます。
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社長
建築年や構造って、どうやって調べんだよ。
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小林税理士
建物の登記簿の表題部に構造や建築年なんかが書いてありますよ。
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小林税理士
㎡当たりの建築単価が求められたら、下の計算表にあてはめて計算すれば、建物の金額が計算できます。
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小林税理士
中古の物件を取得した場合には、新築から購入までの減価償却費相当額を差し引くことになります。
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社長
よくわからん。
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小林税理士
では、計算例でみていきます。

例)令和元年9月に木造中古アパート(平成20年1月築、床面積200㎡)を5,000万円で取得した場合

計算手順)
①建物の標準的な建築価額表 より「木造・平成20年築」の場合の建築単価を求める(計算表の②の欄)・・・156,000円/㎡

②①で求めた建築単価に床面積を掛けて建物の取得価額を求める。(計算表の④の欄)

156,000×200㎡=31,200,000円

③購入した中古アパートの新築時から購入時までの経過年数を求める。(計算表の⑥の欄)

令和元年9月から平成20年1月までの経過期間

 ⇒11年8か月 6か月以上は1年とするため経過年数は12年

④新築時から購入時までの減価償却費相当額を求める。(計算表の8の欄)

木造建物の場合の耐用年数22年。(非業務用の場合を除く)

この場合の償却率は0.046

31,200,000×0.9×12×0.046=15,500,160円

⑤建物の取得価額(上記②の金額)から上記④の減価償却費相当額を差し引いた金額が建物の取得価額となる。

31,200,000-15,500,160=15,699,840円(建物の取得価額)

⑥アパートの購入価額5,000万から上記⑤で求めた金額を差し引いた金額が土地の取得価額となる。

50,000,000-15,699,840=34,300,160円(土地の取得価額)

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社長
計算結構面倒だな。

(3)路線価で土地の価額を算定する方法

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小林税理士
3つ目の方法は、相続税の土地評価で利用される路線価で求めた土地の価額に0.8で割り戻した金額を土地の取得価額とし、購入価額と土地の取得価額との差額を建物の取得価額とする方法です。
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社長
さっきのと逆のパターンだな。
で、0.8って何?
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小林税理士
不動産取引の指標となる価格として「公示価格」というのがあるんですけど、路線価はその公示価格の約8割の価格といわれていますので、時価に近い金額を算出するため簡便的に0.8で割り戻すことにしています。

例) 令和元年9月に木造中古アパート(平成20年1月築、床面積200㎡)を5,000万円で取得した場合

計算手順)

前提 路線価16万円(説明のため各種補正率は考慮しないものとする。)

①まず土地の取得価額を算出する。

160,000×200㎡÷0.8=40,000,000円(土地の取得価額)

②購入価額から上記①の金額を差し引いて建物の取得価額を算出する。

50,000,000-40,000,000=10,000,000(建物の取得価額)

(2)の方法で算定した建物の価額と(3)で算定した土地の価額を基に按分する方法

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小林税理士
4つ目は、建物は標準的な建築価額で、土地は路線価で求めた金額を使い、購入価額で按分する方法です。

結局、どの方法でやればいいの?

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社長
4つ計算方法があるけど、結局どれが一番いいんだ?
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小林税理士
どれが一番いいっていうのはないですけど、一番簡単なのは(1)の方法ですね。
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小林税理士
また(2)や(3)の方法は、差額で出した土地や建物の金額が実態(時価)と大きくかけ離れてしまうこともありえます。
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小林税理士
(4)は一番合理的な計算方法だと思いますが、若干めんどうです。
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社長
それぞれ一長一短があるみたいだから、時間に余裕があれば4つ全部計算してみて、一番合理的な方法と思えるものを選択する。
時間がない又は面倒な場合には、固定資産税評価額で按分する。
こんな感じか?
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小林税理士
ええ、そうですね。