判断が結構難しい修繕費の税務。
修繕費で落とせるのか、それとも一旦資産に計上(資本的支出)して減価償却しなきゃいけないのか悩むこともあるかと思います。
でも、悩んで判断がつかないなら形式的に判断していくしかありません。
そこで今回は、修繕費と資本的支出を簡便的に区分する場合の判定基準についてご説明いたします。
目次
フローチャートだとこうなる
仮に資本的支出に該当するものであっても修繕費として落とすこともできる。該当しない場合は2⃣へ
おおむね3年以内の周期で修理が必要な合理的な事情があれば、修理実績がなくてもOK。該当しない場合は3⃣へ
物理的に何かを付加したとか、改装や模様替えなどの場合には資本的支出となる。該当しない場合には4⃣へ
通常の維持管理なら修繕費。それ以外なら5⃣へ
故障したものを直すなどの原状回復に要したものであれば修繕費。これにも該当しない場合には6⃣へ
修繕費か資本的支出か判断できない部分の金額が60万円未満なら修繕費。該当しない場合には7⃣へ
60万円超でも前期末取得価額の10%以下なら修繕費。該当しない場合には8⃣へ
6⃣.7⃣に該当しない場合でも、継続適用を条件に支出した金額の30%か前期末取得価額の10%を修繕費にすることができる。この特例を使いたくなければ9⃣へ
形式的な判断基準は利用しないことになるので修理内容等を見て実質的に判断する。
そもそも資本的支出って?
例)賃貸アパートの改修工事を800万円かけて行った。
工事内容の内訳は、
外壁塗装(通常の維持管理のためのもの)・・・500万円
防音性を高めるため通常の窓から2重窓にした取り付け工事・・・300万
解説)
外壁塗装の500万円は通常の維持管理にあたるので修繕費となるが、2重窓取り付け工事300万円は、建物の価値を高めるので資本的支出となる。
所得税基本通達37-10(資本的支出の例示)
業務の用に供されている固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となるのであるから、例えば、次に掲げるような金額は、原則として資本的支出に該当する。て昭57直所3-1追加)
(1)建物の避難階段の取付け等物理的に付加した部分に係る金額
(2)用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した金額
(3)機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した金額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる金額を超える部分の金額
(注)建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。
ですので実務では形式的に修繕費か資本的支出になるかの判断基準が設けられているんですよ。
まずは20万円未満か?
仮に上記通達37-10の資本的支出に当てはまったとしても、20万円未満なら修繕費として落とせます。
じゃあ、修繕や改良の周期がおおむね3年以内か?
(法人税は7-8-3になります。)
所得税基本通達37-12(少額又は月期の短い費用の必要経費算入)
一の計画に基づき同一の固定資産について行う修理、改良等(以下37-14までにおいて「一の修理、改良等」という。)が次のいずれかに該当する場合において、その修理、改良等のために要した金額を修繕費の額としてその業務に係る所得の金額を計算し、それに基づいて確定申告を行つているときは、37-10にかかわらず、これを認めるものとする。(昭57直所3-1追加、平元直所3-14改正)
(1)その一の修理、改良等のために要した金額(その一の修理、改良等が2以上の年にわたつて行われるときは、各年ごとに要した金額。以下37-14までにおいて同じ。)が20万円に満たない場合
(2)その修理、改良等がおおむね3年以内の期間を周期として行われることが既往の実績その他の事情からみて明らかである場合
(注)上記の「同一の固定資産」は、一の設備が2以上の資産によつて構成されている場合には当該一の設備を構成する個々の資産とし、送配管、送配電線、伝導装置等のように一定規模でなければその機能を発揮できないものについては、その最小規模として合理的に区分した区分ごととする。以下37-14までにおいて同じ。
そうすると、実績がない初めての修繕の場合、使えないんじゃないか?
明らかに価値が高まっているか?それでなければ耐久性は増しているか?
所得税基本通達37-10(資本的支出の例示)
業務の用に供されている固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額が資本的支出となるのであるから、例えば、次に掲げるような金額は、原則として資本的支出に該当する。て昭57直所3-1追加)
(1)建物の避難階段の取付け等物理的に付加した部分に係る金額
(2)用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した金額
(3)機械の部分品を特に品質又は性能の高いものに取り替えた場合のその取替えに要した金額のうち通常の取替えの場合にその取替えに要すると認められる金額を超える部分の金額
(注)建物の増築、構築物の拡張、延長等は建物等の取得に当たる。
例示の(1)~(3)に当てはまるようなら簡単に判断できるけど、それ以外は難しいだろ。
通常の維持管理なの?違う?じゃあ原状回復?
・通常の維持管理のため
・原状回復のため
に要した金額が修繕費になると規定しています。
所得税基本通達37-11(修繕費に含まれる費用)
業務の用に供されている固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち当該固定資産の通常の維持管理のため、又は災害等によりき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額(当該金額に係る損失につき法第51条第1項若しくは第4項(資産損失の必要経費算入)又は第72条(雑損控除)の規定の適用を受けている場合には、当該金額のうち、これらの規定に規定する損失の金額に算入された金額を除く。)が修繕費となるのであるが、次に掲げるような金額は、修繕費に該当する。(昭55直所3-19追加、昭57直所3-1改正)
(1)建物の移えい又は解体移築をした場合(移えい又は解体移築を予定して取得した建物についてした場合を除く。)におけるその移えい又は移築に要した費用の額。ただし、解体移築にあつては、旧資材の70%以上がその性質上再使用できる場合であつて、当該旧資材をそのまま利用して従前の建物と同一の規模及び構造の建物を再建築するものに限る。
(2)機械装置の移設(49-5の適用のある移設を除く。)に要した費用(解体費を含む。)の額
(3)地盤沈下した土地を沈下前の状態(業務の用に供された時において既に沈下していた土地については、その業務の用に供された時の状態とする。)に回復するために行う地盛りに要した費用の額(その土地の沈下による損失につき法第51条第1項若しくは第4項又は第72条の規定の適用を受けている場合には、当該部分の金額のうち、これらの規定に規定する損失の金額に算入された金額を除く。)。
(4)建物、機械装置等が地盤沈下により海水等の浸害を受けることとなつたために行う床上げ、地上げ又は移設に要した費用の額(当該費用に係る損失につき法第51条第1項若しくは第4項又は第72条の規定の適用を受けている場合には、当該費用のうち、これらの規定に規定する損失の金額に算入された金額を除く。)。ただし、その床上工事等が従来の床面の構造、材質等を改良するものである等明らかに改良工事であると認められる場合のその改良部分に対応する金額を除く。
(5)現に使用している土地の水はけを良くするなどのために行う砂利、砕石等の敷設に要した費用の額及び砂利道又は砂利路面に砂利、砕石等を補充するために要した費用の額
通常の維持管理や原状回復費用でもなくて、上記各通達の例示にも該当しない場合には、判断も難しくなるので、その場合には、次の判定に進んでください。
60万円未満だったら修繕費になるけど、どう?
所得税基本通達37-13(形式基準による修繕費の判定)
一の修理、改良等のために要した金額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額があり、その金額が次のいずれかに該当する場合において、その修理、改良等のために要した金額を修繕費の額としてその業務に係る所得の金額を計算し、それに基づいて確定申告を行っているときは、これを認めるものとする。(昭57直所3-1追加、平元直所3-14、直法6-9、直資3-8、平19課個2-11、課資3-1、課法9-5、課審4-26改正)
(1) その金額が60万円に満たない場合
(2) その金額がその修理、改良等に係る固定資産の前年12月31日における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合
(注)
1 前年以前の各年において、令第127条第4項の規定の適用を受けた場合における当該固定資産の取得価額とは、同項に規定する一の減価償却資産の取得価額をいうのではなく、同項に規定する旧減価償却資産の取得価額と追加償却資産(同項に規定する追加償却資産をいう。以下この項において同じ。)の取得価額の合計額をいうことに留意する。
2 固定資産には、当該固定資産についてした資本的支出が含まれるのであるから、当該資本的支出が同条第5項の規定の適用を受けた場合であっても、当該固定資産に係る追加償却資産の取得価額は当該固定資産の取得価額に含まれることに留意する。
こちらの通達は修繕費になるか、資本的支出になるかわからない場合について認められているものですので。
20万円未満の場合とは取り扱いが違います。
前期末取得価額の10%以下でも修繕費でいけるけど?
前年(前期)の帳簿価額ってこと?
前年(前期)末取得価額とは、前年(前期)末に有する固定資産の当初の取得価額である原始取得価額と前年(前期)末までにした資本的支出の合計額のことです。
前年(前期)末の
原始取得価額+すでにした資本的支出の合計額
前年(前期)末取得価額の10%以下の金額の計算例
前提
建物 前期末帳簿価額1,500万円(当初の取得価額は5,000万円)
過去の資本的支出 前期に1,000万円
今期に修繕費か資本的支出か判断できない支出が800万円生じた。
計算
(5,000万円+1,000万円)×10%=600万円<800万円
∴今期の800万円は通達37-13の判断基準では修繕費にならない。
どれも当てはまらない?割合区分で計算する?
いずれか低い金額を修繕費とすることができる。(残りは資本的支出)
(1)支出金額の30%
(2)前年(前期)末取得価額の10%
前提
建物 前期末帳簿価額1,500万円(当初の取得価額は5,000万円)
過去の資本的支出 前期に1,000万円
今期に修繕費か資本的支出か判断できない支出が800万円生じた。
計算
(1)支出金額の30% 800万円×30%=240万円
(2)前期末取得価額 (5,000万円+1,000万円)×10%=600万円
いずれか低い金額 (1)<(2) ∴(1) 240万円
修繕費の金額 240万円
資本的支出の金額 800万円-240万円=560万円
今後も同じ取り扱いにしなきゃいけないとなると特例適用するか判断に迷うな。
ちなみにこの特例の通達は以下の通りです。
(法人税は通達7-8-5)
所得税基本通達37-14(資本的支出と修繕費の区分の特例)
一の修理、改良等のために要した金額のうちに資本的支出であるか修繕費であるかが明らかでない金額(37-12、37-12の2、37-13又は37-14の2の適用があるものを除く。)がある場合において、継続してその金額の30%相当額とその修理、改良等をした固定資産の前年12月31日における取得価額の10%相当額とのいずれか少ない金額を修繕費の額とし、残余の額を資本的支出の額としてその業務に係る所得の金額を計算し、それに基づいて確定申告を行っているときは、これを認めるものとする。(昭57直所3-1追加、平7課所4-16、平19課個2-11、課資3-1、課法9-5、課審4-26改正)
(注)
1 当該修理、改良等をした固定資産に係る除却損失につき、法第51条第1項又は第4項の規定の適用を受ける場合には、上記により計算された修繕費の額であっても、51-3により必要経費に算入されないものがあることに留意する。
2 当該固定資産の前年12月31日における取得価額については、37-13の(2)の(注)による。
割合区分で計算するの嫌?じゃあお手上げ(実質で判断)
参考法令
所得税法施行令第181条 (資本的支出)
不動産所得、事業所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務を行なう居住者が、修理、改良その他いずれの名義をもつてするかを問わず、その業務の用に供する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額) は、その者のその支出する日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額、山林所得の金額又は雑所得の金額の計算上、必要経費に算入しない。
◆1 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
◆2 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額
法人税法施行令第132条 (資本的支出)
内国法人が、修理、改良その他いずれの名義をもつてするかを問わず、その有する固定資産について支出する金額で次に掲げる金額に該当するもの(そのいずれにも該当する場合には、いずれか多い金額) は、その内国法人のその支出する日の属する事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。
◆1 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測される当該資産の使用可能期間を延長させる部分に対応する金額
◆2 当該支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額