前回、社長のスーツ代が会社の経費になるかについて検討してみました。
今回は、個人事業主のスーツ代が経費になるかについて検討してみたいと思います。
目次
過去の判例から経費にならないという意見
小林税理士
税理士の中には、スーツ代は必要経費にならなかったという過去の判例があることから必要経費で落ちないという意見もあります。
過去の判例
所得税決定処分取消請求事件
昭和49年5月30日 京都地方裁判所
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=18055
(下の「全文」のPDFをクリックすると全文をダウンロードできます。)
A 4で40枚ほどありますので、余程暇な方以外は読まないことをオススメします。
社長
でも、過去の判例があるなら必要経費にするのって難しいんじゃないか?
スーツ代は家事関連費
小林税理士
でもこの判例って、スーツ代を「家事費」だとは言ってなくて、「家事関連費」だと言ってるんですよね。
小林税理士
だとすれば、業務に必要な部分を合理的に区分できれば必要経費に算入できることになります。
社長
その「家事費」とか「家事関連費」とかって何?
家事費と家事関連費
小林税理士
簡単に説明すると以下の通りです。
家事費と家事関連費
・家事費・・・プライベートな費用なので必要経費にするのは100%ムリ。
・家事関連費・・・プライベートと業務に必要な部分が混在しているから、一部は経費として認めてもいいような経費(例:自宅兼事務所の家賃や水道光熱費など)
社長
じゃあ一部は必要経費になるじゃん。
スーツ代は全額経費でいいんじゃないかという考え(私見)
小林税理士
あくまで私見ですが、家事関連費であるならば、そのスーツが業務に必要であって、必要な部分を合理的に区分できれば必要経費に算入できると考えます。
社長
でも合理的に区分って、実際にどうやって区分するんだ?
小林税理士
例えば、スーツを使用した日数なんかで按分するのも合理的な区分の方法だと思います。
社長
例えば、平日は毎日着用しているとすれば、
スーツの金額×5日/7日とか?
スーツの金額×5日/7日とか?
小林税理士
土日はプライベートで着用してるってことですか?
社長
休みの日にスーツなんか着ないだろ。
小林税理士
じゃあ、使用日数で按分したら使用日数5日のうち、業務で使用した日数5日だったら、全額必要経費になるんじゃないですか?
社長
そんなんでいいのか?
小林税理士
いいと思いますよ。だって、固定資産(例えばパソコン)なんかは、日数じゃなく「事業専用割合」で減価償却費を按分してるじゃないですか。
社長
ん?何を言ってるのかよくわからん。
小林税理士
例えば業務で使用するためにパソコンを買ったとします。(プライベートでも使用可能)
プライベートでは、毎日(365日)5分だけ使用していたとします。
プライベートでは、毎日(365日)5分だけ使用していたとします。
小林税理士
逆に仕事では、毎日は使用しないが使用するときは長時間使用してて、全体の使用時間のうち95%が仕事、5%がプライベートの使用だったとして、数分にせよ毎日プライベートで使用してるからほとんど経費で落ちないとしたら納得できますか?
確かに。使用という基準で考えたとき、業務でもプライベートでも使用していない日がある場合なんかに、単純に日数で按分したりするのはおかしいよな。
特定支出控除では、合理的な区分は要求されていない
小林税理士
あと僕が、スーツ代が全額必要経費でもいいんじゃないかと思う理由としてH24に改正された特定支出控除の範囲が拡大され、衣服費も控除対象となったことです。
社長
特定支出控除?何それ?
特定支出控除とは?
小林税理士
特定支出控除の説明の前に、個人事業主(事業所得者)とサラリーマン(給与所得者)の所得計算の方法を確認してみます。
個人事業主とサラリーマンの所得計算の違い
・個人事業主(事業所得者)
総収入金額-必要経費(実額の経費)=事業所得
・サラリーマン(給与所得者)
給与等収入金額-給与所得控除(収入に応じて自動確定)=給与所得金額
社長
サラリーマンの「給与所得控除」って、事業所得でいう必要経費みたいなものか?
小林税理士
専門書なんかでは、いろんな解釈がされていますが、一般的にはサラリーマンの概算経費というふうに考えてもらって構いません。
小林税理士
それで、上記のとおり給与所得控除は、給与の収入金額が決まれば金額が自動的に決まってしまいます。
社長
じゃあ、実際に掛かった経費が給与所得控除以上あっても関係ないんだ?
小林税理士
原則的には、実額の経費は考慮されません。
ただ、下の図のように特定支出控除の合計が給与所得控除額の1/2を超える場合には、その超える部分の金額も給与収入から控除できると制度があります。
ただ、下の図のように特定支出控除の合計が給与所得控除額の1/2を超える場合には、その超える部分の金額も給与収入から控除できると制度があります。
衣服費とは?
小林税理士
ここでは特定支出控除について詳しく説明しませんが、特定支出控除の中に「衣服費」というのがあるんです。
小林税理士
上記の留意点にあるようにスーツを着て仕事をするのが通常の職場であれば、スーツの購入代は被服費として給与所得者の経費として認められています。(勤務先の証明が必要)
サラリーマンは全額OK,個人事業主は按分必要。おかしくないか?
小林税理士
この被服費としてのスーツ代ですが、仮に休みの日にプライベートで着用したとしても、合理的に仕事部分とプライベート部分を按分するなどといったことは要求されていません。
社長
確かに。
給与所得者は全額特定支出に入れられるのに、個人事業主はダメっていうのはおかしいよな。
給与所得者は全額特定支出に入れられるのに、個人事業主はダメっていうのはおかしいよな。
小林税理士
であれば、個人事業主で購入したスーツを
・プライベートで絶対着用しないということはないが、まず着ることはない。
・結婚式等があれば他に着ていく服がないのでとりあえず購入したスーツを着るということはある。
という程度のプライベートでの利用頻度であれば、全額必要経費に算入しても良いのではないかと考えます。
・プライベートで絶対着用しないということはないが、まず着ることはない。
・結婚式等があれば他に着ていく服がないのでとりあえず購入したスーツを着るということはある。
という程度のプライベートでの利用頻度であれば、全額必要経費に算入しても良いのではないかと考えます。
最終的な判断は、ご自身の責任でお願いします。
今回の内容は、あくまでも私見であり法律の規定に基づくものではありません。ご参考程度にお願いします。