前回、不動産所得の事業的規模のメリット・デメリットにおいて、回収不能家賃の取り扱いについて、若干ふれさせていただきました。

今回は、その点についてもう少し詳しくお話させていただきます。

未収家賃が回収不能となった場合の取扱い

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小林税理士
前回、不動産所得の事業的規模のお話で未収家賃が回収不能となった場合の取扱いについて、ちょっとだけ触れましたけど、わかりづらかったみたいで・・・
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社長
確かに、わかりづらかったな。
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小林税理士
なのでもうちょっとその部分について、お話させていただきます。

事業的規模の場合

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小林税理士
滞納されていた家賃が回収できなかった場合ですけど、事業的規模の場合は、法人や個人の事業所得のように事業で賃貸経営をしているという解釈ですので、法人や個人の事業所得と同様、回収不能となった事業年度の必要経費となります。

所得税法第51条 (資産損失の必要経費算入)


 1項 省略

 2 居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。

以下、省略

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社長
事業的規模の場合は、法人なんかと同じような扱いになるからわかりやすいよな。

事業的規模以外の場合

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小林税理士
そうですね。
わかりにくいのは事業的規模以外のほうですね。

第64条 (資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)
 その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。以下この項において同じ。) の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く。以下この項において同じ。) の全部若しくは一部を回収することができないこととなつた場合又は政令で定める事由により当該収入金額若しくは総収入金額の全部若しくは一部を返還すべきこととなつた場合には、政令で定めるところにより、当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなつた金額又は返還すべきこととなつた金額に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかつたものとみなす。
以下、省略

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小林税理士
上の条文が、事業的規模以外の場合の取扱いの根拠なんですけど、「不動産所得を生ずべき事業から生じたものを除く。」とは、つまり事業的規模以外ということです。
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小林税理士
そして、その収入金額(家賃)が回収できなかったら、その回収できなかった家賃自体が、そもそもなかったものとみなされるということです。
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社長
収入自体を取り消すってことか?
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小林税理士
まあ、そんなようなイメージです。
ただ、実際のなかったものとみなされる金額は、実際の回収不能額でなく、政令や通達で決められているので、さらにわかりづらくしているんですよね。
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政令や通達で決められている「なかったものとみなされる金額は、次の金額のうち最も低い金額となります。
なかったものとみなされる金額(所基64-2の2,64-3)

次のうち最も低い金額
(1)回収不能となった家賃
(2)回収不能となった家賃を収入に計上した年の課税標準の合計額
 ※損益通算がある場合には、損益通算後の金額
 ※純損失又は雑損失の繰越控除がある場合には、控除後の金額
 ※総合長期譲渡と一時所得は1/2する前の金額
(3)回収不能となった家賃を収入に計上した年の不動産所得の金額

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社長
(1)と(3)はわかるけど、(2)がよくわかんないな。
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小林税理士
そうですね。
文字だけだとわかりづらいので、数字を使って説明させていただきます。

例1

・回収不能となった家賃収入は200,000円で、前年に収入計上している。

・前年の不動産所得の総収入金額2,900,000円

・前年の不動産所得の必要経費900,000円

・この他に給与所得1,800,000円あり

この場合のなかったものとみなされる金額は

(1)回収不能額200,000円

(2) 回収不能となった家賃を収入に計上した年の課税標準の合計額

(290万-90万)+180万=3、800、000円

(3) 回収不能となった家賃を収入に計上した年の不動産所得の金額

  290万-90万=2,000,000円

最も低い金額は(1)の200,000円

前年の不動産所得は、

総収入金額290万-20万(なかったものとみなす)=2,700,000円

必要経費900,000円

よって、前年の不動産所得の金額は180万円となります。

例2

・回収不能となった家賃収入は200,000円で、前年に収入計上している。

・前年の不動産所得の総収入金額900,000円

・前年の不動産所得の必要経費1,000,000円

・この他に給与所得1,800,000円あり

この場合のなかったものとみなされる金額は

(1)回収不能額200,000円

(2) 回収不能となった家賃を収入に計上した年の課税標準の合計額

(90万-100万)+180万=1,700、000円

(3) 回収不能となった家賃を収入に計上した年の不動産所得の金額

 90万-100万=▲100,000円

最も低い金額は(3)の▲100,000円→マイナスの場合は、0

よって、なかったものとみなす金額は0円となり、回収不能分は何ら考慮されません。

例3

・回収不能となった家賃収入は200,000円で、前年に収入計上している。

・前年の不動産所得の総収入金額1,300,000円

・前年の不動産所得の必要経費1,000,000円

・この他に事業所得▲200,000円あり

この場合のなかったものとみなされる金額は

(1)回収不能額200,000円

(2) 回収不能となった家賃を収入に計上した年の課税標準の合計額

(130万-100万)+▲20万=100、000円

(3) 回収不能となった家賃を収入に計上した年の不動産所得の金額

  130万-100万=300,000円

最も低い金額は(2)の100,000円

前年の不動産所得は、
総収入金額130万-10万(なかったものとみなす)=1,200,000円
必要経費1,00,000円
よって、前年の不動産所得の金額は20万円となります。

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社長
基本的には、回収不能が発生した年の収入から回収不能額を減らすが、その年の不動産所得や他の所得の内容によっては、例3みたく一部しか減額出来なかったり、例2みたいに全く考慮されないってこともあるんだな。
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小林税理士
ええ。

更正の請求が必要

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社長
なかったものとみなすってことは、確定申告をやり直すってことだろ?
その場合、手続き的にはどうやるんだ?
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小林税理士
はい、この場合は確定申告書を作り直すのではなく、具体的には更正の請求書というものを作成して提出することになります。
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小林税理士
書き方や書類などは国税庁のHPにあります。
所得税及び復興特別所得税の更正の請求手続