前回、社宅を活用した節税の内容と計算方法などについてお話させていただきました。

前回の社宅のお話の前提は、賃貸マンションやアパートを法人で借りて役員又は従業員が利用するということでした。

では、会社が戸建住宅やマンションを購入して、これを社長の社宅にする場合もメリットはあるのか?

今回は、これを検討してみたいと思います。

実際、メリットはあるの?

結論から申し上げると、メリットがあったり、なかったりでどちらとも言えないと言うのが結論です。

何故かというと、社宅を所有してしまうとその物件を将来的にどうするのかという問題が出てくるからです。

要は、

会社を解散した場合、個人で買い戻すのか。

相続が発生した場合どうなるのか など

不確定な要素がたくさんあるため、メリットがあったり、なかったりするためです。

では、どのような場合にメリットがあったり、なかったりするのかを見ていきたいと思います。

メリット・デメリット

入居期間中

メリット

・個人所有だと建物の減価償却は税務上何ら考慮されないが、法人所有だと減価償却費を損金として計上できる。

・個人所有だと毎年の固定資産税は生活費の一部なので税務上何ら考慮されないが、法人所有だと租税公課として損金に出来る。

・融資を受けて建物を購入している場合、支払利息は全額法人の損金となる。(個人でも住宅ローン控除があり、住宅ローンのほうが金利が安い場合、メリットと言えるのかどうか?)

メリットについて思いつくまま上げてみました。

一方で、デメリットはあるのかというと税務上は思いつきません。

となると、入居期間中は法人所有の方がメリットがあるといえるのではないでしょうか。

売却した場合

社宅を売却した場合には、売却額が帳簿価額より大きければ差額が法人の益金として、売却額が帳簿価額より小さければ差額が法人の損金となります。

そうすると

メリット

ケース1 本業の事業が黒字で、社宅の売却が赤字の場合

本業の黒字と相殺できるので節税となる。

個人の場合、自宅を売却して損失が生じたケースでは、住宅ローンが売却額以上に残っているなど一定の場合を除けば、その損失は給与所得である役員報酬と通算するということは出来ず何ら考慮されないので、このようなケースでは、法人所有のほうがメリットはあります。

ケース2 社宅の赤字が多額であるため、本業と通算後も赤字となる場合

青色申告の法人の場合は、損失が生じた事業年度の翌年以降9年間損失の繰越が出来る。

それに対して個人の場合、上記で述べたとおり何ら考慮されない。

仮に売却額より残った住宅ローンのほうが多い場合には、一定の条件を満たすことにより給与所得等と損益通算出来たり、3年間の繰越控除が出来たりするが、繰越せる期間が法人と比べて短く、このケースでも法人所有のほうがメリットはあります。

デメリット

ケース3 社宅に売却益が出ており、本業も黒字の場合

このようなケースの場合、圧倒的に法人が不利となる。

なぜなら、個人の場合、自宅を売却して売却益が生ずると、売却益のうち3,000万円まで控除でき、なおかつ、所有期間が10年超であった場合には売却益のうち、3,000万円を超える部分についても税率が軽減されるようになっているため。

例えば、本業の事業がトントンで所得0円で、社宅の売却益が4,000万円出ている場合(法人の課税所得4,000万円)には、

法人(中小企業)の税負担は、約1,370万円になります。

一方で、個人で自宅の売却による所得が4,000万円生じた場合には

個人の自宅の売却にかかる税負担は140万円となり、

その差約1,230万円も生じてしまいます。

贈与した場合

例えば、相続税対策の一環として自宅を配偶者に贈与するということがよく行われています。

この場合は個人所有のほうがメリットがあると思います。

ケースごとに見ていく前に前提として

・社宅の帳簿価額3,000万円

・贈与する建物・土地の相続税評価額は2,000万円

・所有権移転登記の際の税金等は無視する。 とします。

ケース1 時価4,000万円の社宅を贈与した場合

法人の場合、タダで何かをあげた場合には、基本的に時価で売ったものとされてしまうというのが原則です。

そうすると、帳簿価額3,000万円のものを4,000万円で売ったものとされてしまうので差額1,000万円が課税の対象となってしまいます。

それだけではなく、もらった配偶者側でも法人からの贈与は時価でもらったものとなり、贈与税ではなく、所得税の一時所得(4,000万円の収入があったもの)として課税されてしまいます。

要は、あげた方、もらった方両方に課税がされてしまうと言うことです。

ケース2 時価2,000万円の社宅を贈与した場合

このケースでは、法人側は売却損が出るので本業が黒字であったりすれば節税にはなりますが、やはり個人では一時所得が課税されてしまいます。

ケース3 個人所有の自宅を贈与した場合

このケースでは、贈与税の配偶者控除の要件を満たしているならば、贈与税はあげた社長側のほうは納税義務者でないので当然無税、一方もらった配偶者側でも2,000万円までは無税なので、両方共無税ということになります。

ちなみに贈与税の配偶者控除とは簡単に説明すると、婚姻期間が20年超の夫婦で自己の居住用不動産や居住用不動産を取得するための資金を贈与した場合、2,000万円まで(金銭の場合は額面、不動産の場合は相続税評価額)を贈与税の課税価格から控除出来るという特例です。

相続が発生した場合

中小企業の場合、社長が株主であることが多いと思いますが、その社長に相続が発生した場合はどうなるかというと

個人所有の場合には、自宅が不動産として相続されます。

一方、法人所有の場合には、社宅は会社の株式に含まれる財産の一部でしかないことから不動産の相続ではなく、株式を相続することで一緒に社宅もついてきます。

では、どちらがメリットがあるのかというと

こちらに関しては何とも言えません。

個人所有の場合は、自宅を配偶者であったり、同居親族がその自宅を相続した場合で一定の条件を満たせば、その自宅の土地の相続税評価額から80%評価減してくれる制度がありますので、その結果、相続税が0円になるのであればメリットはあるとも言えます。

一方で、法人の場合は株式の相続ということになりますが、こちらについても株式を相続する人が、その事業を承継する場合には、一定の条件を満たせば事業承継税制(という制度があります。説明は省略)の適用があるので、どっちが良いかは株式の評価額や全体の相続財産を見てみないと何とも言えません。

まとめ

最初に結論を申し上げたように、

入居期間中は、メリットがあるかもしれませんが、その社宅を売却したり、贈与したりした場合には、大きく損をする可能性もあるため注意が必要です。

まあ、そもそも何の利益も生み出さない社宅を多額のお金を掛けて購入する中小企業の方はほとんどいないと思いますが、一応所有した場合、どうゆうメリットやデメリットがあるのか考えてみました。参考にしてみてください。