以前、役員の定期同額給与についてお話させていただきました。
その際の記事がこちら
目次
過大役員報酬
前回の記事では触れませんでしたが、定期同額給与の要件を満たしていたとしても株主総会で決めた金額を超えて支給している場合には、超えた部分の金額は損金には算入されません。
どうゆうことかというと、例えば株主総会で月額30万円と決議したが、実際には毎月40万円払っていた。
このようなケースですと、毎月40万円払っているので「所定の時期に同額の支給」で一見、定期同額給与の要件を満たしそうですが、株主総会で決めた30万円を超える10万円部分は、過大な役員報酬という取り扱いとなって、定期同額かどうかにかかわらず、損金に算入されません。
しかし、中小企業の場合、社長兼株主の場合が圧倒的に多いかと思いますので、自分で30万円と決めておいて実際は40万円払うというのは、あまりないのではないでしょうか。
なので、現金支給の役員報酬に関しては、おそらくこの株主総会で決めた基準が問題になることはないと思います。
問題は、 会社の経費で落とした保険料や食事代などが、税務調査で役員報酬となってしまった場合です。
例えば、株主総会で役員報酬を月額30万円として、実際に30万円支給していたが、税務調査で会社で掛けていた保険料(月5万円とします)が、役員報酬とされてしまった場合
この場合、役員報酬は現金支給の30万円と現物支給の保険料5万円で35万円が支給されていたことになります。
そうすると、株主総会では月30万円としていたので、オーバーした5万円は、損金にならないということになってしまいます。
対策 株主総会で報酬の枠を拡げておく
上記の役員報酬となってしまった保険料の5万円を損金に算入する方法はないのでしょうか?
実は、あらかじめ株主総会決議で役員報酬の枠を拡げておくことで損金算入できるのです。
どうゆうことかというと、例えば
「株主総会で社長の役員報酬を50万円以内とする」
というふうに決めたとします。
しかし、実際には30万円の支給だったとしても、「50万円以内」の支給ですので何ら問題はありません。
その後、税務調査で保険料月5万円が役員報酬とされてしまった場合でも、役員報酬は35万円ですので、50万円以内での支給となるので現物支給の保険料も損金となります。
ただ、保険料の場合ありがちなのが、決算時に年払いにしているようなケースでは、「毎月所定の時期に同額支給」には該当しないので、この場合には損金に算入されません。
同額でないものでも大丈夫か?
上記では、保険料だったので支払額が毎月同額ということもあり、定期同額給与に該当し、損金算入の要件を満たしましたが、
社宅の水道光熱費を会社の経費で落としたしまったような場合や会社が負担した食事代が給与として課税されてしまったような場合はどうでしょう。
毎月水道光熱費は同額ということはないでしょうし、食事代にしても勤務日数によって、毎月若干金額が変わると思います。
では、この場合同額ではないので定期同額給与の要件は満たさないのでしょうか?
実は、これも通達に規定があって
法人税基本通達9-2-11(継続的に供与される経済的利益の意義)
令第69条第1項第2号《定期同額給与の範囲等》に規定する「継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」とは、その役員が受ける経済的な利益の額が毎月おおむね一定であるものをいうのであるから、例えば、次に掲げるものはこれに該当することに留意する。(平19年課法2-3「二十二」により追加、平19年課法2-17「二十」により改正)
(1) 9-2-9の(1)、(2)又は(8)に掲げる金額でその額が毎月おおむね一定しているもの
(2) 9-2-9の(6)又は(7)に掲げる金額(その額が毎月著しく変動するものを除く。)
(3) 9-2-9の(9)に掲げる金額で毎月定額により支給される渡切交際費に係るもの
(4) 9-2-9の(10)に掲げる金額で毎月負担する住宅の光熱費、家事使用人給料等(その額が毎月著しく変動するものを除く。)
(5) 9-2-9の(11)及び(12)に掲げる金額で経常的に負担するもの
とあり、毎月おおむね一定であれば水道光熱費のように毎月若干の増減があるようなものについても「毎月おおむね一定」として定期同額の要件を満たします。
なお、参考に上記通達中に記載のある「9-2-9」の内容を載っけておきます。
法人税法基本通達9-2-9(債務の免除による利益その他の経済的な利益)
法第34条第4項《役員給与》及び法第36条《過大な使用人給与の損金不算入》に規定する「債務の免除による利益その他の経済的な利益」とは、次に掲げるもののように、法人がこれらの行為をしたことにより実質的にその役員等(役員及び同条に規定する特殊の関係のある使用人をいう。以下9-2-10までにおいて同じ。)に対して給与を支給したと同様の経済的効果をもたらすもの(明らかに株主等の地位に基づいて取得したと認められるもの及び病気見舞、災害見舞等のような純然たる贈与と認められるものを除く。)をいう。(平19年課法2-3「二十二」により追加、平22年課法2-1「十八」により改正)
(1) 役員等に対して物品その他の資産を贈与した場合におけるその資産の価額に相当する金額
(2) 役員等に対して所有資産を低い価額で譲渡した場合におけるその資産の価額と譲渡価額との差額に相当する金額
(3) 役員等から高い価額で資産を買い入れた場合におけるその資産の価額と買入価額との差額に相当する金額
(4) 役員等に対して有する債権を放棄し又は免除した場合(貸倒れに該当する場合を除く。)におけるその放棄し又は免除した債権の額に相当する金額
(5) 役員等から債務を無償で引き受けた場合におけるその引き受けた債務の額に相当する金額
(6) 役員等に対してその居住の用に供する土地又は家屋を無償又は低い価額で提供した場合における通常取得すべき賃貸料の額と実際徴収した賃貸料の額との差額に相当する金額
(7) 役員等に対して金銭を無償又は通常の利率よりも低い利率で貸し付けた場合における通常取得すべき利率により計算した利息の額と実際徴収した利息の額との差額に相当する金額
(8) 役員等に対して無償又は低い対価で(6)及び(7)に掲げるもの以外の用役の提供をした場合における通常その用役の対価として収入すべき金額と実際に収入した対価の額との差額に相当する金額
(9) 役員等に対して機密費、接待費、交際費、旅費等の名義で支給したもののうち、その法人の業務のために使用したことが明らかでないもの
(10) 役員等のために個人的費用を負担した場合におけるその費用の額に相当する金額
(11) 役員等が社交団体等の会員となるため又は会員となっているために要する当該社交団体の入会金、経常会費その他当該社交団体の運営のために要する費用で当該役員等の負担すべきものを法人が負担した場合におけるその負担した費用の額に相当する金額
(12) 法人が役員等を被保険者及び保険金受取人とする生命保険契約を締結してその保険料の額の全部又は一部を負担した場合におけるその負担した保険料の額に相当する金額
他に方法は?
無難なのが、上記の役員報酬の枠を大きめにとっておくことですが、
この他に例えば、株主総会議事録で
第○号議案 取締役報酬金額等決定の件
代表取締役社長 〇〇 月額30万円
上記のほか、代表取締役社長に対して必要に応じて経済的利益の額を供与する。
といった内容を盛り込んでおくことで、あとで税務調査で保険料などが現物給与として役員報酬となった場合でも、リスク回避はできると思います。
この場合の記載のポイントは、
・「報酬金額」ではなく、「報酬金額等」と記載すること
・「必要に応じて経済的利益の額を供与する」の文言を入れること
の2点です。
議事録の見直しをしてみよう
このように、役員報酬には定期同額給与や事前確定届出給与などといったもののほか、過大役員報酬ということも気をつけておかなければならないので、一度議事録の見直しをしてみることをオススメします。