所得税
回収不能となった家賃の税務上の取扱い
(更新 )
入居者の滞納が続き、結局回収できなくなった家賃は、税金の計算でどう扱うのでしょうか。個人の不動産所得では、事業的規模かどうかで扱いが大きく変わります。
この記事のポイント
- 事業的規模なら、回収できなくなった年の必要経費になります。
- 事業的規模以外なら、その家賃を収入に計上した年にさかのぼって、収入がなかったものとみなします。
- ただし、なかったものとみなせる金額には上限があり、更正の請求の手続きが必要です。
事業的規模の場合
不動産の貸付けが事業的規模(目安は「5棟10室基準」)の場合は、法人や個人事業の売掛金と同じように、回収できなくなった年の必要経費になります。
所得税法 第51条第2項(資産損失の必要経費算入)
居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業について、その事業の遂行上生じた売掛金、貸付金、前渡金その他これらに準ずる債権の貸倒れその他政令で定める事由により生じた損失の金額は、その者のその損失の生じた日の属する年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。
事業的規模以外の場合
わかりにくいのは、事業的規模以外の場合です。この場合は、回収できなくなった家賃を、収入に計上した年にさかのぼって、そもそもなかったものとみなす、という扱いになります。
所得税法 第64条第1項(資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例)より(抜粋)
その年分の各種所得の金額(事業所得の金額を除く。)の計算の基礎となる収入金額若しくは総収入金額(不動産所得又は山林所得を生ずべき事業から生じたものを除く。)の全部若しくは一部を回収することができないこととなった場合(中略)には、(中略)当該各種所得の金額の合計額のうち、その回収することができないこととなった金額(中略)に対応する部分の金額は、当該各種所得の金額の計算上、なかったものとみなす。
なかったものとみなす金額
ただし、なかったものとみなせる金額は、実際に回収できなかった金額そのままではなく、次の3つのうち最も低い金額になります。
- 回収できなかった家賃の額
- その家賃を収入に計上した年の課税標準の合計額(損益通算や、純損失・雑損失の繰越控除をしたあとの金額)
- その家賃を収入に計上した年の不動産所得の金額
計算例
いずれも、回収できなかった家賃は20万円で、前年の収入に計上していたものとします。
| 例1 | 例2 | 例3 | |
|---|---|---|---|
| 前年の不動産所得 | 290万円-90万円=200万円 | 90万円-100万円=△10万円 | 130万円-100万円=30万円 |
| ほかの所得 | 給与所得180万円 | 給与所得180万円 | 事業所得△20万円 |
| ① 回収できなかった額 | 20万円 | 20万円 | 20万円 |
| ② 課税標準の合計額 | 380万円 | 170万円 | 10万円 |
| ③ 不動産所得の金額 | 200万円 | △10万円 | 30万円 |
| なかったものとみなす額 | 20万円(①) | 0円(③がマイナスのため) | 10万円(②) |
例2のように、まったく考慮されないこともあるのですね。
はい。回収できなかった家賃を計上した年の不動産所得が赤字だった場合などは、なかったものとみなす金額が0円になり、何も考慮されないことになります。例3のように、一部しか減額できない場合もあります。
更正の請求が必要
事業的規模以外の場合は、過去の年分の所得を直すことになるので、確定申告書を出し直すのではなく、「更正の請求」という手続きをします。
期限は「回収できなくなった日の翌日から2か月以内」
更正の請求は、本来、申告の内容に計算の誤りなどがあった場合に、原則として法定申告期限から5年以内に行う手続きです。
ところが今回のケースは、申告した時点では計算に誤りはなく、あとから家賃が回収できなくなったものです。このような場合は、通常の更正の請求の対象にはなりません。その代わりに、所得税法の特例(所得税法第152条)により、回収できなくなった事実が生じた日の翌日から2か月以内に限って、更正の請求ができることになっています。
更正の請求は5年以内ならできると聞いたことがあるのですが、この場合は違うのですね。
はい、ここが間違えやすいところです。回収できなくなったことによる更正の請求は、5年ではなく、その日の翌日から2か月以内です。期限が短いので、回収をあきらめると決めた時点で、すぐに手続きを考えておく必要があります。
更正の請求書の書き方は、国税庁のホームページで確認できます。滞納家賃の回収をあきらめたときは、早めにご相談ください。
家賃の計上時期そのものについては、「法人と個人で違う家賃収入の計上時期」で解説しています。
※記事の内容は、更新日時点の法令にもとづいています。実際の判断は、個別の状況によって変わることがあります。