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小林税理士
今回は、個人で賃貸経営されている方で、賃貸料(以下「家賃」とする)を複数年分一括で受け取った場合の税務上の取り扱いについてお話させていただきます。

原則は、受取った年に一括計上

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小林税理士
以前お伝えいたしましたが、契約で年払いや複数年一括払いとなっている場合は、契約等による支払日に計上となるので、受取った年(契約による支払日)に収入計上となります。

勝手に1年分振り込んできたら?

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社長
契約では、毎月払うことになってるのに、勝手に1年分の家賃を振り込んできた場合でも、もらった年に収入計上するのか?
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小林税理士
その場合には、支払日が到来していない分については、もらう権利が確定していないので、もらった年の収入にならず、翌年の収入になります。

事業的規模で期間対応基準の場合

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小林税理士
契約で複数年の家賃を一括でもらう契約となっている場合に、もらった年に全額収入に計上しなくてもよいのは、事業的規模で期間対応基準を採っている場合だけです。
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社長
事業的規模で期間対応基準以外の場合、家賃をもらった年に全額収入計上だと、かなり税金が増えたりするんじゃないか?
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小林税理士
普通に申告すれば、そうなる可能性はあります。

一括計上した場合の必要経費の見積計上

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小林税理士
ただ、1年分とか複数年分の家賃をその年の収入として一括計上した場合には、その一括計上した収入に関係する費用や損失を見積もって、収入計上した年の必要経費に算入できるんですよ。

所得税基本通達37-3(翌年以後の期間の賃貸料を一括して収受した場合の必要経費)


 資産の貸付けの対価としてその年分の総収入金額に算入された賃貸料でその翌年以後の貸付期間にわたるものに係る必要経費については、その総収入金額に算入された年において生じた当該貸付けの業務に係る費用又は損失の金額とその年の翌年以後当該賃貸料に係る貸付期間が終了する日までの各年において通常生ずると見込まれる当該業務に係る費用の見積額との合計額をその総収入金額に算入された年分の必要経費に算入することができるものとする。この場合において、当該翌年以後において実際に生じた費用又は損失の金額が当該見積額と異なることとなつたときは、その差額をその異なることとなつた日の属する年分の必要経費又は総収入金額に算入する。

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社長
おお!これで翌年以降の分も見積計上出来るんだったら、それほど大きく所得は増えないんじゃないか?
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小林税理士
どうでしょうね。不動産所得の必要経費って一般的にはそれほど多くはないでしょうし、必要経費を見積計上しても他の年より所得は上がっちゃうんじゃないでしょうか。
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小林税理士
それと、必要経費を見積計上した場合には、翌年以降実際の必要経費と差がある場合には、その差が判明した日の属する年分の確定申告で調整します。
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社長
調整するってことは、見積より実際の方が多かったら、差額を追加計上で、少なかったら、、、、どうなる?
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小林税理士
少ない場合には、収入として計上することになります。
ですので、修正申告とかする必要はありません。

見積計上しなくてもよい。

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小林税理士
それとこの規定は、「できる」となっているので、必ず見積計上しなくても構いません。
なので、面倒くさければやらなくてもいいんですよ。
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社長
でも、やらないと所得が大きく増えちゃうだろ?
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小林税理士
例えば駐車場代月5,000円で2年分を一括でもらう契約とかだったら、そんなに大きく所得は増えませんよ。
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社長
ああ、確かに。

臨時所得と平均課税

3年以上の家賃一括計上の場合

臨時所得

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小林税理士
それと3年以上の期間の家賃を一括で収入計上した場合には、「臨時所得」という所得に該当します。

所得税基本通達2-37(臨時所得に該当するもの)
 次に掲げるものに係る所得は、令第8条の臨時所得に該当する。(昭49直所2-23改正)
 (1)3年以上の期間にわたる不動産の貸付けの対価の総額として一括して支払を受ける賃貸料で、その全額がその年分の不動産所得の総収入金額に算入されるべきもの
 (2)不動産の賃貸人が、賃借人の交替又は転貸により賃借人又は転借人(前借人を含む。)から支払を受けるいわゆる名義書換料、承諾料その他これらに類するもの(その交替又は転貸後の貸付期間が3年以上であるものに限る。)で、その金額がその交替又は転貸後に当該賃貸人が支払を受ける賃貸料の年額の2倍に相当する金額以上であるもの(譲渡所得に該当するものを除く。)
 (3)令第8条第2号に規定する不動産、不動産の上に存する権利、船舶、航空機、採石権、鉱業権、漁業権又は工業所有権その他の技術に関する権利若しくは特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるものに係る損害賠償金その他これに類するもので、その金額の計算の基礎とされた期間が3年以上であるもの(譲渡所得に該当するものを除く。)
 (4)金銭債権の債務者から受ける債務不履行に基づく損害賠償金及び通則法第58条第1項(還付加算金)又は地方税法第17条の4第1項(還付加算金)に規定する還付加算金で、その金額の計算の基礎とされた期間が3年以上であるもの

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社長
不動産所得じゃなくなって、臨時所得っていうのになるってことか?
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小林税理士
いえ、不動産所得なんですけど、その中に臨時所得というものが含まれているというような感じです。
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社長
で、臨時所得になるとどうなるんだ?
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小林税理士
臨時所得というのは読んで字のごとく、臨時に生ずる所得なので、そのまま計算してしまうと所得が増加してしまいます。
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小林税理士
所得税は、所得の多さによって税率が増える超過累進税率という方法により税率を課していきますので、多額の税負担が生じることになってしまう可能性があります。
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小林税理士
それなので、臨時所得のうち一定の要件に該当したものに関しては、平均課税という別の課税方法により課税して、税負担の緩和を図るようにしているんです。

平均課税

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社長
平均課税。はじめて聞いたな。
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小林税理士
ええ、法人税にはない規程なので税理士でも結構見落とされがちです。
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社長
で、さっきの話だと臨時所得に該当したとしても、要件満たさなかったら、その平均課税という方法は採用できないってことだな?
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小林税理士
ええ。適用があるかどうかの判断は以下のとおりです。

適用の判定

平均課税の適用有無の判定

その年分の変動所得金額+その年分の臨時所得金額
              ≧ 総所得金額 × 20%

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社長
変動所得って何?
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小林税理士
不動産所得には関係してこないので、わからなくても問題ないのですが、内容的には漁業関係の所得なんかが入ったりします。
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小林税理士
変動所得は、はまち・まだい・ひらめ・かき・うなぎ・真珠の養殖....
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小林税理士
こんなこと税理士受験時代に覚えましたよ~。
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社長
そんなもの覚えたところで何の意味がwww
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小林税理士
実務であまり出てこないですね。

所得税法施行令第7条の2 (変動所得の範囲) 
 法第2条第1項第23号(変動所得の意義) に規定する政令で定める所得は、漁獲若しくはのりの採取から生ずる所得、はまち、まだい、ひらめ、かき、うなぎ、ほたて貝若しくは真珠(真珠貝を含む。)の養殖から生ずる所得、原稿若しくは作曲の報酬に係る所得又は著作権の使用料に係る所得とする。

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小林税理士
なので、不動産所得者の実際の平均課税の判定は。
臨時所得のみの平均課税の判定

その年分の臨時所得金額 ≧ 総所得金額 × 20%

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社長
総所得金額って何だっけ?
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小林税理士
利子・配当・不動産・事業・給与・雑・総合短期譲渡、それに1/2後の総合長期譲渡と一時所得で、純損失や雑損失の繰越控除後の金額をいいます。
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社長
要は、不動産所得だけじゃなくて、他に給与所得や事業所得があれば、それらもひっくるめた所得ってことだな?
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小林税理士
まあ、そんな感じで理解してもらえればいいと思います。

平均課税の税額計算

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小林税理士
平均課税の税額計算方法はわかりずらいので簡単に計算順序を示すと。
1
平均課税対象金額を求める。

不動産所得者の場合は、臨時所得の金額が平均課税対象金額となります。

2
調整所得金額に対する税額を求める。

ざっくり説明すると課税総所得金額から平均課税対象金額の4/5を差し引いた金額(調整所得金額)に超過累進税率を掛けたもの。

3
特別所得金額に対する税額を求める。

ざっくり説明すると課税総所得金額から上記の調整所得金額を差し引いた金額(特別所得金額)に平均税率というものを掛けたもの。

4
上記2と3を合計したものが課税総所得金額に対する税額となる。

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社長
これでも充分わかりづらいけどな。
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小林税理士
そうなんですよね。
要は、平均課税部分の所得とそれ以外の所得で、別々に税額を計算して、それを合計するってことです。

所得税法第90条 (変動所得及び臨時所得の平均課税)
 居住者のその年分の変動所得の金額及び臨時所得の金額の合計額(その年分の変動所得の金額が前年分及び前前年分の変動所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額以下である場合には、その年分の臨時所得の金額) がその年分の総所得金額の100分の20以上である場合には、その者のその年分の課税総所得金額に係る所得税の額は、次に掲げる金額の合計額とする。
 ◆1 その年分の課税総所得金額に相当する金額から平均課税対象金額の5分の4に相当する金額を控除した金額(当該課税総所得金額が平均課税対象金額以下である場合には、当該課税総所得金額の5分の1に相当する金額。以下この条において「調整所得金額」という。) をその年分の課税総所得金額とみなして前条第1項の規定を適用して計算した税額
 ◆2 その年分の課税総所得金額に相当する金額から調整所得金額を控除した金額に前号に掲げる金額の調整所得金額に対する割合を乗じて計算した金額
 2 前項第2号に規定する割合は、小数点以下2位まで算出し、3位以下を切り捨てたところによるものとする。
 3 第1項に規定する平均課税対象金額とは、変動所得の金額(前年分又は前前年分の変動所得の金額がある場合には、その年分の変動所得の金額が前年分及び前前年分の変動所得の金額の合計額の2分の1に相当する金額を超える場合のその超える部分の金額) と臨時所得の金額との合計額をいう。
 4 第1項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に同項の規定の適用を受ける旨の記載があり、かつ、同項各号に掲げる金額の合計額の計算に関する明細を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。

計算書の添付が必要

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小林税理士
この平均課税なんですけど、この計算の適用を受ける場合には、確定申告書と一緒に「変動所得・臨時所得の平均課税の計算書」を添付しなければなりません。

更正の請求も可能

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社長
でもこれって、臨時所得ってことに気づかなくて申告しちゃった場合、多く税金納めることになっちゃうよな?
これって修正申告とかで返してもらうこと出来るのか?
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小林税理士
この場合、更正の請求という手続きになるのですが、それをすることで還付を受けることが可能です。