会社の福利厚生の一環として行われる社員旅行。

「いくらぐらいまでだったら経費で落ちるの?」「従業員の家族分も経費で落として大丈夫?」などといったギモンがあると思います。

そこで今回は、社員旅行についての税務上の取扱についてご説明させていただきます。

原則は、給与

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小林税理士
社長の会社は社員旅行とかって、ありますか?
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社長
そんな儲かってないのに、旅行なんかにお金使えないよ。
他はみんな社員旅行とかって行ってるのか?
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小林税理士
大企業はわかりませんが、中小企業ですと社員旅行はないところが多いような感じです。
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社長
だろ!
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小林税理士
でもある程度利益が出そうな期や毎期一定程度利益の出ている中小企業の方なんかは、福利厚生の一環として社員旅行を行っているところもありますよ。
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社長
そうゆうところって、どれくらい旅行に金使うんだ?
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小林税理士
まあ一般的には、税務上従業員に給与課税されない範囲内の金額にされているところが多いです。
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社長
なんで会社の社員旅行にいったら、従業員に課税されるんだよ。社員旅行だって仕事だろ?
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小林税理士
言いたいことはわからなくもないんですが、基本的に旅行というのは、会社からいただいたお給料から自分で負担して行くものですので、それを会社が負担したら、その旅行費用分は、給与として支給したのと同じだというのが税務上の考え方なんです。
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社長
でも完全なプライベートじゃないんだぞ。
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小林税理士
まあ、そうですけど。
なので、一定の条件を満たせば、あえて課税しないという非課税の取扱いもあるんです。
ここでのポイント

・社員旅行の費用は、原則は従業員に対する給与
・しかし、一定の条件を満たせば非課税として、福利厚生費で処理できる。

非課税となる条件

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社長
非課税って、具体的に法律で決まってるのか?
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小林税理士
法律では具体的なことは書かれておりませんが、通達などである程度非課税となる基準は示されております。

 所得税基本通達36-30(課税しない経済的利益使用者が負担するレクリエーションの費用)
 使用者が役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる会食、旅行、演芸会、運動会等の行事の費用を負担することにより、これらの行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益については、使用者が、当該行事に参加しなかつた役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかつた者を除く。)に対しその参加に代えて金銭を支給する場合又は役員だけを対象として当該行事の費用を負担する場合を除き、課税しなくて差し支えない
 (注)上記の行事に参加しなかつた者(使用者の業務の必要に基づき参加できなかつた者を含む。)に支給する金銭については、給与等として課税することに留意する。

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小林税理士
ここでのポイントは、
・自己都合の不参加の者に、旅行に代えて金銭を支給しないこと
・役員だけなど、特定の者だけを対象とするものでないこと
の2つがポイントとなります。
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社長
要は、旅行に参加しなかった従業員には、旅行に代えて、手当みたいなものを支給しなければいいんだな?
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小林税理士
そうです。
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社長
業務都合で参加できなかった従業員に、旅行費用分を金銭で支給した場合はどうなる?
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小林税理士
この場合、金銭の支給を受けた従業員には、その分の給与課税がされてしまいます。

自己都合の不参加者に金銭を支給すると旅行参加者も課税されてしまう。

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小林税理士
また、自己都合の不参加者に金銭を支給してしまった場合なんですけど。
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社長
なんだ?
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小林税理士
この場合は、金銭の支給を受けた従業員だけでなく、旅行に参加した役員や従業員にも給与課税されてしまいます。
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社長
旅行に参加した従業員も課税されんのかよ。
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小林税理士
ええ、ちなみに参加した役員又は従業員の課税される金額は、不参加者に支払った金額となります。

 所得税基本通達36-50(用役の評価)
 使用者が役員又は使用人に提供した用役については、当該用役につき通常支払われるべき対価の額により評価する。ただし、36-30に定める行事に参加した役員又は使用人が受ける経済的利益で、その行事に参加しなかつた役員又は使用人(使用者の業務の必要に基づき参加できなかつた者を除く。以下この項において同じ。)に対してその参加に代えて金銭が支給される場合に受けるものについては、その参加しなかつた役員又は使用人に支給される金銭の額に相当する額とする。

ここでのポイント

不参加者に金銭を支給した場合
・業務都合の従業員・・・その従業員だけが給与課税
・自己都合の従業員・・・その従業員だけでなく、参加者も全員給与課税

参加割合や旅行期間の条件

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小林税理士
あと、非課税の社員旅行となる条件として滞在日数や参加割合なども決められていて以下のとおりとなります。

No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行
[平成30年4月1日現在法令等]
 従業員レクリエーション旅行や研修旅行を行った場合、使用者が負担した費用が参加した人の給与として課税されるかどうかは、その旅行の条件を総合的に勘案して判定します。
1 従業員レクリエーション旅行について
 従業員レクリエーション旅行の場合は、その旅行によって従業員に供与する経済的利益の額が少額の現物給与は強いて課税しないという少額不追及の趣旨を逸脱しないものであると認められ、かつ、その旅行が次のいずれの要件も満たすものであるときは、原則として、その旅行の費用を旅行に参加した人の給与としなくてもよいことになっています。
(1) 旅行の期間が4泊5日以内であること。
 海外旅行の場合には、外国での滞在日数が4泊5日以内であること。
(2) 旅行に参加した人数が全体の人数の50%以上であること。
 工場や支店ごとに行う旅行は、それぞれの職場ごとの人数の50%以上が参加することが必要です。
(注1) 上記いずれの要件も満たしている旅行であっても、自己の都合で旅行に参加しなかった人に金銭を支給する場合には、参加者と不参加者の全員にその不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与の支給があったものとされます。

国税庁HPタックスアンサー源泉所得税 「 No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行 」より抜粋
ここでのポイント

・旅行の期間が4泊5日以内
・旅行の参加割合が50%以上

参加割合や旅行期間の条件を満たしても非課税にならない場合もある

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社長
不参加者には金銭を支給しなくて、旅行を4泊5日以内にして、参加割合を50%以上にすれば非課税になるんだな?
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社長
じゃあ、社員のいない1人社長の会社や家族だけでやってる会社も条件満たせば非課税にならないか?
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小林税理士
それはなりません。
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社長
え!なんで?
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小林税理士
仮に条件を満たしていても、それが以下のような場合には、そもそも非課税と規定する従業員レクリエーション旅行には該当しないので、非課税扱いにはならないんです。

No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行
[平成30年4月1日現在法令等]
 従業員レクリエーション旅行や研修旅行を行った場合、使用者が負担した費用が参加した人の給与として課税されるかどうかは、その旅行の条件を総合的に勘案して判定します。
1 従業員レクリエーション旅行について

(省略)


(注2) 次のようなものについては、ここにいう従業員レクリエーション旅行には該当しないため、その旅行に係る費用は給与、交際費などとして適切に処理する必要があります。
(1) 役員だけで行う旅行
(2) 取引先に対する接待、供応、慰安等のための旅行
(3) 実質的に私的旅行と認められる旅行
(4) 金銭との選択が可能な旅行


国税庁HPタックスアンサー源泉所得税 「 No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行 」より抜粋
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社長
まあ、普通に考えても非課税にならないわな。
条件さえ満たせば非課税になるんだったら、1人会社の社長のプライベートな一人旅や家族旅行なんかも会社の経費で落とせちゃうことになるからな。

金額の条件もある

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小林税理士
また、この他に金額の条件もあります。
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社長
まだあんのかよ!
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小林税理士
ええ、基本的に社員旅行のような現物の給与に当たるものを非課税とするのは、金額的に少額なものであればあえて課税しないというのが税務上の考え方なので、旅行費用の金額も重要になります。
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社長
じゃあ、いくらまでならOKなんだ?
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小林税理士
法律や通達では、金額の基準はないのですけど、裁決事例や国税庁のタックスアンサーが判断の参考になります。
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小林税理士
こちらは、社員旅行の費用が高額がどうかで争われた事案で国税不服審判所が高額かどうかの判断にあたり参考とした旅行費用の平均額です。
国税不服審判所HP 公表裁決事例 平22.12.17裁決より
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小林税理士
こちらですと、会社負担の平均は66,000~67,000円くらいとなります。
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小林税理士
もう一つ参考となるのが、国税庁のタックスアンサーです。

No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行

(参考)
具体的には、次のように取り扱われるものと考えられます。
(注) 実際に従業員レクリエーション旅行や研修旅行を行った場合に、使用者が負担した費用が参加した人の給与として課税されるかどうかは、その旅行の条件を総合的に勘案して判定することとなります。
[事例1]
イ 旅行期間3泊4日
ロ 費用及び負担状況 旅行費用15万円(内使用者負担7万円)
ハ 参加割合100%
・・・ 旅行期間・参加割合の要件及び少額不追及の趣旨のいずれも満たすと認められることから原則として非課税
[事例2]
イ 旅行期間4泊5日
ロ 費用及び負担状況 旅行費用25万円(内使用者負担10万円)
ハ 参加割合100%
・・・ 旅行期間・参加割合の要件及び少額不追及の趣旨のいずれも満たすと認められることから原則として非課税
[事例3]
イ 旅行期間5泊6日
ロ 費用及び負担状況 旅行費用30万円(内使用者負担15万円)
ハ 参加割合50%
・・・ 旅行期間が5泊6日以上のものについては、その旅行は、社会通念上一般に行われている旅行とは認められないことから課税

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小林税理士
事例2を見ていただくと、会社負担10万円であれば国税庁も少額不追求で非課税でよいと判断しています。
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社長
事例3の方は、旅行期間が条件を満たしていないから課税になっているが、費用負担に関しては特に何も触れられていないぞ。15万でもいいのか?
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小林税理士
ええ、このへんは難しいところですね。
過去の判例なんかでは、20万円以上の費用負担は課税扱いになっていましたし、平成3.7.18裁決では一人あたり183,000円の旅行費用でも非課税となった事例もあります。
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社長
じゃあ、一人あたり150,000円の社員旅行でも大丈夫か?
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小林税理士
でも、最初の参考資料とした海外の社員旅行の会社負担額の一人あたり平均が7万弱だったことからすると、15万はその倍ですよね?
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小林税理士
個人的には
一人あたり10万円前後・・・無難
一人あたり15万円前後・・・高額と判断される可能性あり
というような感じです。
ここでのポイント

旅行費用の会社負担額は
一人あたり10万円くらいまでが無難
一人あたり15万円くらいだと非課税とならない可能性あり

従業員の家族同伴の場合

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社長
あと従業員の家族なんかを会社の社員旅行に参加させてる会社とかあるってよく聞くけど、ああゆうのも非課税になるのか?
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小林税理士
従業員の家族などは会社の従業員ではないので、従業員の家族の分については、課税となります。

まとめ

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小林税理士
会社の社員旅行費用を役員又は従業員の給与とさせないためのポイントをまとめると以下のようになります。
まとめ

・役員だけ対象としたものではない
・自己都合で不参加の者に金銭を支給していない
・参加割合は50%以上
・旅行期間は4泊5日以内
・会社負担額の妥当なラインは10万円前後