相手が支払いを拒絶した場合

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小林税理士
前回、形式上の貸倒として「取引停止後1年以上経過した場合」についてお話させていただきました。

法人税基本通達9-6-3(一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ)
 債務者について次に掲げる事実が発生した場合には、その債務者に対して有する売掛債権(売掛金、未収請負金その他これらに準ずる債権をいい、貸付金その他これに準ずる債権を含まない。以下9-6-3において同じ。)について法人が当該売掛債権の額から備忘価額を控除した残額を貸倒れとして損金経理をしたときは、これを認める。(昭46直審(法)20、昭55直法2-15改正)
 (1)債務者との取引を停止した時(最後の弁済期又は最後の弁済の時が当該停止をした時以後である場合には、これらのうち最も遅い時)以後1年以上経過した場合(当該売掛債権について担保物のある場合を除く。)
 (2)法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
 (注)(1)の取引の停止は、継続的な取引を行つていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至つた場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行つた債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。

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小林税理士
実務上使い勝手の良い上記通達ですが、相手が支払拒絶したために売掛金を払ってもらえない場合まで適用できるのでしょうか?
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社長
相手が普通に営業していたら難しそうだけど、何度請求しても支払い拒絶されていて1年以上払ってもらえなければ貸倒でいけそうじゃないか?
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小林税理士
このような問題について、国税庁は質疑応答事例として以下の回答を示しています。

代理店契約の破棄を理由に支払拒絶を受けている債権


【照会要旨】
 仏壇メーカーであるA法人は、従来、B法人を代理店として製品の販売をしていましたが、諸般の事情から一方的にB法人との代理店契約を破棄し、C法人と代理店契約を締結して取引を始めました。
 このため、B法人との間に紛争が生じ、A法人がB法人に対して有していた売掛金についてB法人が支払を拒絶しています。
 そこで、A法人はこの売掛金について法人税基本通達9-6-3((一定期間取引停止後弁済がない場合等の貸倒れ))に準じて貸倒処理をすることができますか。


【回答要旨】
 当該売掛金について法人税基本通達9-6-3により貸倒処理をすることはできません。
(理由)
 法人税基本通達9-6-3は、回収不能の判断について一種の外形基準を適用して簡素化を図ったものですから、照会事案のように当事者間に営業上の紛争が生じ、そのために事実上回収困難になっている債権についてまで、これを適用して損金算入を認めるものではありません。


【関係法令通達】
 法人税基本通達9-6-3
注記
 平成30年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。

国税庁HP  https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/16/02.htm  より
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社長
なんだ、ダメなんじゃん。
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小林税理士
ええ、ただこの質疑応答事例は基本通達9-6-3のうち(1)のことの適用があるかということについて回答しています。
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小林税理士
では、他の通達なんかは適用できないでしょうか?

他の通達を検討してみる

基本通達9-6-1の検討

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小林税理士
まず基本通達9-6-1は法律上の貸倒れなので、適用は難しそうです。

法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)
 法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。(昭55年直法2-15「十五」、平10年課法2-7「十三」、平11年課法2-9「十四」、平12年課法2-19 「十四」、平16年課法2-14「十一」、平17年課法2-14「十二」、平19年課法2-3「二十五」、平22年課法2-1「二十一」により改正)
 (1) 更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額
 (2) 特別清算に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった部分の金額
 (3) 法令の規定による整理手続によらない関係者の協議決定で次に掲げるものにより切り捨てられることとなった部分の金額
 イ 債権者集会の協議決定で合理的な基準により債務者の負債整理を定めているもの
 ロ 行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約でその内容がイに準ずるもの
 (4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額

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社長
(4)の債権放棄もダメだよな。
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小林税理士
ええ。上記(4)の債権放棄も「債務超過の状態が相当期間継続している」ことが前提ですので。
債権放棄すれば、寄付金になってしまう可能性があります。

基本通達9-6-2の検討

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小林税理士
次に基本通達9-6-2も「その債務者の資産状況、支払い能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合」というのが条件なので、やはり貸倒にするのは難しそうです。

法人税基本通達9-6-2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)
 法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになつた場合には、その明らかになつた事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。(昭55直法2-15、平10課法2-7改正)
 (注)保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

 基本通達9-6-3(2)の検討

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小林税理士
最後に基本通達9-6-3(2)を見てみると。。。。

(2)法人が同一地域の債務者について有する当該売掛債権の総額がその取立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合において、当該債務者に対し支払を督促したにもかかわらず弁済がないとき
 (注)(1)の取引の停止は、継続的な取引を行つていた債務者につきその資産状況、支払能力等が悪化したためその後の取引を停止するに至つた場合をいうのであるから、例えば不動産取引のようにたまたま取引を行つた債務者に対して有する当該取引に係る売掛債権については、この取扱いの適用はない。

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小林税理士
(2)は支払い能力の悪化などは貸倒の要件となっていないようです。
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社長
そうなのか?
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小林税理士
(2)の下の注書きを見てください。
「(1)の取引停止は~」って書いてあります。
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社長
ああ、ほんとだ。
ということは、適用できそうか?
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小林税理士
売掛金の金額が少額で、取立てに要する費用の方が大きい場合であれば、適用できる可能性はあります。

結論

営業上のトラブルにより売掛金の回収が出来ない場合

・基本的に貸倒損失として損金に算入できない。
・債権放棄をしてしまうと寄付金になる可能性がある。
・売掛金の金額より取立費用のほうが大きい場合には、貸倒損失として処理することができる。(ただし、支払いの督促をしていることが前提)