前回は、法律上の貸倒れのうち会社更生法や民事再生法の更生計画認可の決定や再生計画認可の決定があった場合など貸倒損失の取り扱いや得意先が破産した場合の貸倒損失についてお話させていただきました。
今回は、得意先の売掛金などを貸倒損失として処理するために行う債権放棄についての注意点などについてお話させていただきます。
債権放棄をした場合の貸倒
前回、法律上の貸倒のうち債権放棄した場合について、説明してなかったですよね。
法人税基本通達9-6-1(金銭債権の全部又は一部の切捨てをした場合の貸倒れ)
法人の有する金銭債権について次に掲げる事実が発生した場合には、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。
省略
(4) 債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額
この(4)だけチョットほかと性質が違うとか言ってたよな。
前回の法律上の貸倒は、基本的に何らかの「決定」があって、切り捨ての事実を証明する書類もあったりするんで貸倒の判断がしやすいんですけど、この(4)は判断が難しいんですよね。
え、何で?債権放棄する金額を書面にして得意先に交付するだけでいいんだから簡単だろ?
書面を作成するだけなら簡単ですけど、貸倒の判断をすることが難しんです。
上の通達を見てほしいんですけど
・債務者の債務超過の状態
・相当期間継続
・金銭債権の弁済を受けることが出来ないと認められる
この3つを条件を満たす必要があるんです。
債務者の債務超過の状態
普通、払えないんだから業績悪いんだろうし、恐らく債務超過になってるんだろ。
でも、それどうやって債務超過の事実を証明するんです?
請求書を出してから、通帳にずっと入金されていないという事実だけじゃダメなのか?
それだとただ相手が払わないだけかもしれないじゃないですか。
現実には難しいかも知れないのですけど、よく税務の専門誌などには得意先の決算書を入手して債務超過の事実を確認するというようなことが書かれています。
馬鹿言ってんじゃねーよ!そんな簡単に会社の決算書なんか手に入るかよ!
働いたことないんじゃねーか。
でも「決算書見せてもらって債務超過だったら100%確実に債権放棄します」って相手に言われたら、社長だったらどうします?
相当期間継続
それに債務超過の状態が相当期間継続している必要があります。
昔の通達では、3年~5年となっていたこともあって、3年から5年くらいが目安となっています。
ということは、決算書も3~5期分は必要になるってことかよ。
債務超過は時価ベース
ちなみに、債務超過かどうかは時価ベースで判断しますからね。
例えば、決算書の中に不動産や株式があった場合には、時価を見積もって、債務超過かどうか計算しなおします。
金銭債権の弁済を受けることが出来ないと認めらる場合
あと金銭債権の弁済を受けることが出来ないと認められるということも必要です。
債務超過の状態が相当期間継続してるんだから、普通に考えて弁済は受けられないだろ?
債務超過の状態であったとしても、保証人がいるとかで支払いが出来るようであれば、要件は満たしません。
ハードル高すぎないか?
何かどうでもよくなってくるな。
債権放棄をするリスク
確かに要件も厳しいですし、それにリスクもあるので僕としてはこの通達で貸倒にしようとは思いません。
1つは、実際問題として、債務超過が継続しているかなどの要件を完全に調べ切るというのは難しいので、貸倒損失にならないという可能性があるというリスク。
もう一つは、書面で債権放棄をすることに対するリスクです。
1つ目のほうは何となくわかるんだが、もう一つの債権放棄をするリスクっていうのがよくわからないんだが。
債権放棄をして、税務調査で貸倒損失にならないとなった場合、通常は寄付という扱いになります。
貸倒損失が否認された場合の救済
法人税基本通達11-2-2(貸倒損失の計上と個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れ)
法第52条第1項《貸倒引当金》の規定の適用に当たり、確定申告書に「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の損金算入に関する明細書」が添付されていない場合であっても、それが貸倒損失を計上したことに基因するものであり、かつ、当該確定申告書の提出後に当該明細書が提出されたときは、同条第4項の規定を適用し、当該貸倒損失の額を当該債務者についての個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れに係る損金算入額として取り扱うことができるものとする。
(注) 本文の適用は、同条第1項の規定に基づく個別評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入れに係る損金算入額の認容であることから、同項の規定の適用に関する疎明資料の保存がある場合に限られる。
簡単に説明すると、貸倒損失が税務調査などで否認されたとしても、その貸倒損失のうちいくらかは貸倒引当金として損金算入が出来るというものです。
本来、貸倒引当金は申告書に明細書の添付があって認められるものですが、これは後出しであっても認められるという一種の救済措置です。
書面で債権放棄をしたということは、法律(民法)上の債権は消滅して0円になったということです。
法律上0円になったということは、税務上も0円になります。
なので、貸倒損失が否認されたら、金銭債権の金額が0円なので、貸倒引当金を計上しようにも金銭債権が0円になっているので、貸倒引当金は計上できないことになります。
事実上の貸倒れ(基本通達9-6-2)を使う
なので、僕でしたら基本通達の9-6-1(4)を使わずに、9-6-2を使います。
法人税基本通達9-6-2(回収不能の金銭債権の貸倒れ)
法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになつた場合には、その明らかになつた事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。(昭55直法2-15、平10課法2-7改正)
(注)保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。
簡単に説明すると、法律上(会社更生法や会社法、民法)の貸倒は生じていないけど、事実上回収できないような場合、貸倒損失が計上出来るという規定です。
この場合、債権放棄などの手続きが必要ないので、仮に税務署に否認されても、貸倒引当金が計上できる余地があるのである程度のリスク回避にはなります。
まとめ
・債務者の債務超過の状態・・・決算書などを入手して確認
・相当期間継続・・・おおむね3年~5年
・金銭債権の弁済を受けることが出来ないと認められる
・・・保証人や担保物があって回収出来そうか確認
・書面による債権放棄が必要
・税務署から否認された場合「寄付」となる可能性が高い
・書面で債権放棄を行ったことで法律上債権が0円になり、その結果税務上も債権が0円になり、将来においても貸倒損失を損金にすることが出来ない。
・リスク回避のためには、事実上の貸倒れ(基本通達9-6-2)を使う。
最後に残った形式上の貸倒れ(基本通達9-6-3)は、後日お伝えいたします。