役員報酬は原則損金不算入

以前、定期同額給与のところでもお話しましたが、役員に対する給与は働いたからと言って会社が給与を支払っても当然に損金(税務上の経費)になるというものではありません。

法律(法人税法)では、


法人税法第34条 (役員給与の損金不算入) 
 内国法人がその役員に対して支給する給与(退職給与で業績連動給与に該当しないもの、使用人としての職務を有する役員に対して支給する当該職務に対するもの及び第3項の規定の適用があるものを除く。以下この項において同じ。) のうち次に掲げる給与のいずれにも該当しないものの額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない。

つまり、一定の条件を満たしたものでなければ、給与を支払ったとしても原則損金にはならないということです。

その一定の条件とは、

前回お話した定期同額給与であり、

今回お話する事前確定届出給与であり、

または、業績連動給与 (中小企業では関係ないので説明は省略します)の

どれかにあてはまる必要があります。

ちなみに前回は、定期同額給与についてお話させていただきました。(コチラ

事前確定届出給与とは

では、今回は事前確定届出給与についてお話させていただきます。

法人税法第34条1項

◆2 その役員の職務につき所定の時期に、確定した額の金銭又は確定した数の株式(出資を含む。以下この項及び第5項において同じ。) 若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る第54条第1項(譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例) に規定する特定譲渡制限付株式若しくは第54条の2第1項(新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等) に規定する特定新株予約権を交付する旨の定めに基づいて支給する給与で、定期同額給与及び業績連動給与のいずれにも該当しないもの(当該株式若しくは当該特定譲渡制限付株式に係る第54条第1項に規定する承継譲渡制限付株式又は当該新株予約権若しくは当該特定新株予約権に係る第54条の2第1項に規定する承継新株予約権による給与を含むものとし、次に掲げる場合に該当する場合にはそれぞれ次に定める要件を満たすものに限る。)

上記の条文は大変わかりづらいので太字の部分だけ読んでください。

これを読んでいる方は、中小企業の方だと思いますので、基本的には金銭での支給だとすると、ポイントは

①所定の時期、②確定額、③支給する旨の定めの3つです。

①の所定の時期とは、例えば株主総会で「令和元年12月10日に支給する。」ということであれば、令和元年12月10日が所定の時期となります。

②の確定額とは、例えば株主総会で「50万円を支給する。」ということであれば50万円が確定額ということになります。

③の支給する旨の定めは、①と②を株主総会で決議するということです。

決めただけではダメ、届出が必要!

法律上の要件は、株主総会で支給時期と支給額を決めれば損金算入の要件は満たしますが、上記の法律には続きがあり、支給時期や支給額を記載した届出書を税務署に提出しなければならないことになっています。

法人税法第34条1項2号


イ その給与が定期給与を支給しない役員に対して支給する給与(同族会社に該当しない内国法人が支給する給与で金銭によるものに限る。) 以外の給与(株式又は新株予約権による給与で、将来の役務の提供に係るものとして政令で定めるものを除く。) である場合 政令で定めるところにより納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていること。

上記条文を読んでもよく意味がわからないと思いますが、簡単に説明すると同族会社ではない定期給与を受けていない役員(非常勤役員)などに支給するぶんには税務署に届出書を出さなくてもいいですけど、それ以外の場合には届出書を出してくださいねということです。

届出はいつまでにするの?

条文を載せておきますが、わけがわからないと思うので読み飛ばしてください。

法人税法施工令第69条

4 法第34条第1項第2号イに規定する届出は、第1号に掲げる日(第2号に規定する臨時改定事由が生じた場合における同号の役員の職務についてした同号の定めの内容に関する届出については、次に掲げる日のうちいずれか遅い日。第7項において「届出期限」という。) までに、財務省令で定める事項を記載した書類をもつてしなければならない。
 ◆1 株主総会等の決議により法第34条第1項第2号の役員の職務につき同号の定めをした場合における当該決議をした日(同日がその職務の執行の開始の日後である場合にあつては、当該開始の日) から1月を経過する日(同日が当該開始の日の属する会計期間開始の日から4月(法第75条の2第1項各号の指定を受けている内国法人にあつては、その指定に係る月数に3を加えた月数) を経過する日(以下この号において「4月経過日等」という。) 後である場合には当該4月経過日等とし、新たに設立した内国法人がその役員のその設立の時に開始する職務につき法第34条第1項第2号の定めをした場合にはその設立の日以後2月を経過する日とする。)
 ◆2 臨時改定事由(当該臨時改定事由により当該臨時改定事由に係る役員の職務につき法第34条第1項第2号の定めをした場合(当該役員の当該臨時改定事由が生ずる直前の職務につき同号の定めがあつた場合を除く。) における当該臨時改定事由に限る。) が生じた日から1月を経過する日

要するに届出期限は

通常は、株主総会の決議の日から一月経過日

ですが、その一月経過日が事業年度開始の日から4月経過日後である場合には、4月経過日 となります。

ちなみに、新設法人は設立の日から2月を経過する日となります。

例えば、3月決算の法人で株主総会を5/25に行った場合

①株主総会決議の日から一月経過日は、6/25

②事業年度開始の日(4/1)から4月経過日は、7/31なので

①が②より前の日なので6/25が届出の提出期限となります。

また、臨時改定の場合(中小企業の場合、社長の怪我や病気による長期入院や社長の急逝などで他の役員が代表取締役になったなど)には、臨時改定事由が生じた日から一月を経過する日となります。

事前確定届出給与についてよくある質問

Q1.届出書に記載された金額より多く払ったら、記載された金額までは損金になるの?

A1.「所定の時期に確定額を支給する旨の定め」に基づいて支給された場合に損金算入されるので、実際支給額と届出た支給額が違う場合には、届出に基づいた支給でないことになってしまうので全額が損金にならないということになってしまいます。

Q2.では、少なく支給したら大丈夫?

A2.A1と同様に「所定の時期に確定額を支給する旨の定め」に基づいた金額と違うので、少なく払っても払った金額全額が損金に参入されません。

法人税法基本通達

9-2-14(事前確定届出給与の意義)
 法第34条第1項第2号《事前確定届出給与》に掲げる給与は、所定の時期に確定した額の金銭等(確定した額の金銭又は確定した数の株式若しくは新株予約権若しくは確定した額の金銭債権に係る法第54 条第1項((譲渡制限付株式を対価とする費用の帰属事業年度の特例))に規定する特定譲渡制限付株式若しくは法第54 条の2第1項((新株予約権を対価とする費用の帰属事業年度の特例等))に規定する特定新株予約権をいう。)を交付する旨の定めに基づいて支給される給与をいうのであるから、例えば、同号の規定に基づき納税地の所轄税務署長へ届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合にはこれに該当しないこととなり、原則として、その支給額の全額が損金不算入となることに留意する。(平19年課法2-3「二十二」により追加、平29年課法2-17「十二」により改正)

Q3.年に何回まで支給していいの?

条文上特に定めはありませんが、「事前確定届出給与に関する届出書」の付表1を見ると8回分記載する欄がございますが、付表用紙を追加することで9回以上でも問題はないかと思います。

Q4.じゃあ毎月でもいいの?

A4.意味ないかと・・・。定期同額給与に該当するように設定すればよいと思います。

Q5.資金繰りの都合上、届出書に記載した日に支給できそうにないのですけど未払計上でも大丈夫?

A5.専門書などによっては、一時的な未払いであれば認められるという見解もあります。しかし、Q2で少なく支給した場合には全額損金不算入となるのに対し、例えば所定の時期に500万支給するという届出を出し、資金繰りの都合上300万しか払えないので残り200万は未払計上することがOKだとすると所定の時期に確定額を支給するという厳格な要件は形骸化してしまいます。このような考え方からすると未払計上というのは難しいのではないかと考えます。

Q6.複数回支給する届出をした場合、1回でも届出額と支給額が違ったらどうなるの?

原則的には、届出額と支給額が1回でも違えば全てが損金に算入されなくなります。例えば、3月決算の法人で5/25の株主総会で8/10・12/10・3/10にそれぞれ100万円を支給する旨を記載した届出書を提出し、8/10に100万・12/10に100万円・3/10は資金繰りの都合上支給しなかった。

この場合、8/10と12/10は届出額と支給額が一致しているので損金として認められそうですが、国税庁の質疑応答事例ではこのように述べています。


定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)


複数回の支給がある場合には、原則として、その職務執行期間に係る当該事業年度及び翌事業年度における支給について、その全ての支給が定めどおりに行われたかどうかにより、事前確定届出給与に該当するかどうかを判定することとなります。

国税庁質疑応答事例より一部抜粋

ですので、8/10と12/10に支払った合計200万円は損金にならないということになってしまいます。

Q7.Q6の例外

Q6では、全ての支給が定め通りに行われたかどうかにより判定するということでしたが、国税庁の質疑応答事例ではこれに対する例外的な取扱があるということが記載されています。(読むのが面倒な場合は、太字の部分だけでも読んでみてください)


定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)
【照会要旨】
 当社(年1回3月決算の同族会社)では、X年6月26日の定時株主総会において、取締役Aに対して、定期同額給与のほかに、同年12月25日及びX+1年6月25日にそれぞれ300万円の金銭を支給する旨の定めを決議し、届出期限までに所轄税務署長へ届け出ました。
 この定めに従い、当社は、X年12月25日には300万円を支給しましたが、X+1年6月25日には、資金繰りの都合がつかなくなったため、50万円しか支給しませんでした。
 この場合、X年12月25日に届出どおり支給した役員給与についても、損金の額に算入されないこととなるのでしょうか。
【回答要旨】
 X年12月25日に届出どおり支給した役員給与については、損金の額に算入して差し支えありません。
(理由)
 役員の職務につき所定の時期に確定した額の金銭等を交付する旨の定めに基づいて支給する給与のうち、
定期給与を支給しない役員に対して支給する給与(同族会社に該当しない法人が支給する給与で金銭によるものに限ります。)以外の給与(株式又は新株予約権による給与で、将来の役務の提供に係るものとして一定の要件を満たすものを除きます。)である場合には、届出期限までに納税地の所轄税務署長にその定めの内容に関する届出をしていること、
株式を交付する場合には、その株式が市場価格のある株式又は市場価格のある株式と交換される株式(適格株式)であること、
新株予約権を交付する場合には、その新株予約権がその行使により市場価格のある株式が交付される新株予約権(適格新株予約権)であること、の要件を満たしている場合のその給与(以下「事前確定届出給与」といいます。)は、その法人の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができます(法法34
二)。
 この事前確定届出給与は、所定の時期に確定した額の金銭等を支給する旨の定めに基づいて支給するもの、すなわち、支給時期、支給金額又は株式数等が事前に確定し、実際にもその定めのとおりに支給される給与に限られます(法基通9-2-14)。
 したがって、所轄税務署長へ届け出た支給額又は株式数等と実際の支給額又は株式数等が異なる場合には、事前確定届出給与に該当しないこととなりますが、ご質問のように、2回以上の支給がある場合にその定めのとおりに支給されたかどうかをどのように判定するのか、というのが照会の趣旨かと思われます。
 この点、一般的に、役員給与は定時株主総会から次の定時株主総会までの間の職務執行の対価であると解されますので、その支給が複数回にわたる場合であっても、定めどおりに支給されたかどうかは当該職務執行の期間を一つの単位として判定すべきであると考えられます。
 したがって、複数回の支給がある場合には、原則として、その職務執行期間に係る当該事業年度及び翌事業年度における支給について、その全ての支給が定めどおりに行われたかどうかにより、事前確定届出給与に該当するかどうかを判定することとなります。
 例えば、3月決算法人が、X年6月26日からX+1年6月25日までを職務執行期間とする役員に対し、X年12月及びX+1年6月にそれぞれ200万円の給与を支給することを定め、所轄税務署長に届け出た場合において、X年12月には100万円しか支給せず、X+1年6月には満額の200万円を支給したときは、その職務執行期間に係る支給の全てが定めどおりに行われたとはいえないため、その支給額の全額(300万円)が事前確定届出給与には該当せず、損金不算入となります。
 ただし、ご質問のように、3月決算法人が当該事業年度(X+1年3月期)中は定めどおりに支給したものの、翌事業年度(X+2年3月期)において定めどおりに支給しなかった場合は、その支給しなかったことにより直前の事業年度(X+1年3月期)の課税所得に影響を与えるようなものではないことから、翌事業年度(X+2年3月期)に支給した給与の額のみについて損金不算入と取り扱っても差し支えないものと考えられます。
【関係法令通達】
 法人税法第34条第1項第2号
 法人税法施行令第69条第3項から第8項
  法人税法施行規則第22条の3第1項、第2項
 法人税基本通達9-2-14
[参考] 平成29年度税制改正において、役員給与の損金不算入制度の改正が行われており、その改正内容によって適用時期が異なりますので、平成29年度 法人税関係法令の改正の概要(平成29年5月)を参照してください。
注記
 平成30年7月1日現在の法令・通達等に基づいて作成しています。
 この質疑事例は、照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答であり、必ずしも事案の内容の全部を表現したものではありませんから、納税者の方々が行う具体的な取引等に適用する場合においては、この回答内容と異なる課税関係が生ずることがあることにご注意ください。

国税庁HP質疑応答事例より

このように、事業年度を跨ぐようなケースでは直前の事業年度の課税所得に影響がないということから損金算入を認めているというケースもあります。

Q8.届出をしましたが、1度も支給しなかった場合はどうなるの?

A8.支給していないので当然損金になりません。

届出失念に注意

事前確定届出給与は所定の時期に確定額を支給するだけではなく、期限までに届出書を出すことで損金に算入されます。

この届出書の提出期限が、法人税の申告書の提出期限と同じなら提出を失念(忘れる)ことはあまりないのですが、提出期限は法人税の提出期限より1ヶ月ほどあとだったりするので、提出し忘れたというミスが発生しやすいのです。

ミスを起こさないためには、届出書の提出期限に提出するのではなく、早めに支給時期と金額を決めて、法人税の申告書と一緒に税務署に提出するなどの対応が必要かと思います。

おわりに

今回は事前確定届出給与についてお話させていただきました。

事前確定届出給与は支給回数を増やせば、支給できずに今まで支給した金額が損金不算入となってしまうリスクがあります。

個人的な考えですが、事前確定届出給与を利用するならば、支給額は決算月の1回に設定し、業績が良ければ支給、悪ければ支給しないとシンプルにしたほうが良いのではないかと思います。