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小林税理士
前回、資産を寄付(贈与)した場合の税務上の考え方についてお話させていただきました。
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小林税理士
そして最後に、寄付という認識がなくても税務上寄付金となってしまうこともあるということをお伝えいたしました。
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小林税理士
例えば、
・資産の低額譲渡
・資産の低額貸付
・無償の役務提供
・低額の役務提供
・資産の高価買入れ
・資産の高額借入れ
・高額の役務の支払い
・債権放棄、債務免除
・債務の無償引受    などです。
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小林税理士
今回は、これらのうち無償の役務の提供について基本的な考え方や注意点などについてお話させていただきます。

前提

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小林税理士
説明をする前に前提として、上記の取引を行ったからといって必ず寄付金とされるというわけではないんですよ。
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社長
じゃあ、どういう時に寄付金となって、どういう時に寄付金にならないことになるんだ?
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小林税理士
「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額がある場合」には、その認められる金額が寄付金となってしまいます。

法人税法第37条 (寄附金の損金不算入)

1~7項省略 

8 内国法人が資産の譲渡又は経済的な利益の供与をした場合において、その譲渡又は供与の対価の額が当該資産のその譲渡の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額に比して低いときは、当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。

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社長
認められるって、誰が認めるんだよ!
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小林税理士
寄付金の問題が出てくるのは、通常税務調査の時だったりしますので、税務署ですね。
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社長
でも、どうやって認められる金額って決めてんだ?
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小林税理士
具体的な基準などはないですが、これに関しては後ほどお話させていただきます。
ここまでのポイント

・無償の役務提供などの取引を行っても、必ず寄付金とされるわけではない。
・寄付金とされるのは、実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額がある場合に限られる。

基本的な考え方

無償の役務の提供の場合

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小林税理士
無償の役務の提供については、前回のモノ(資産)で寄付した場合と考え方は一緒です。
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社長
無償の役務の提供って言われても、いまいちイメージが沸かないんだけど、どんなのが該当するんだ?
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小林税理士
例えば、タダで土地を貸したとか、タダ(無利息)でお金を貸したとかです。例をあげてみますと。

例)通常の家賃100万円/月の事務所をタダで貸した場合

貸した側

本来通常の家賃で貸したとみなす

(借方)現金 100万/(貸方)受取家賃 100万

受け取った家賃を借り主に寄付したとみなす

(借方)寄付金 100万/(貸方)現金 100万

現金のやりとりを省略すると

(借方)寄付金 100万/(貸方)受取家賃100万

仮に寄付金100万円が全額損金不算入だとすると

貸した側の課税所得は

100万-0=100万

借りた側

(借方)支払家賃 100万/(貸方)雑益 100万

益金と損金が総額計上されるので、借りた側は課税なし。

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社長
でもタダで貸してるのに貸してる側が課税されるっていうのはおかしいよな。
どうみたって、利益を受けているのは借りている側のほうなのに。

寄付金が損金として制限を受ける理由

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小林税理士
一般的な感覚からいったらそうですよね。
でも仮に寄付金を無制限に損金として認めたらどうなるでしょう。例をあげてみると。

例)仕入れた商品をタダであげた場合

仕入れ 10万円(売価15万円) これを全部タダであげたとすると

仕入れたとき

(借方)仕入 10万/(貸方)現金 10万

寄付したとき

(借方)寄付金 15万/(貸方)売上 15万

仮に寄付金が全額損金になるとしたら・・・

課税所得は

15万(売上)-10万(仕入)-15万(寄付金)=▲10万円

仕入の分だけ課税所得が減少する

      ↓

課税所得が減少すると、税額が減る

      ↓

税額が減ると、国の税収が減る

      ↓

減った税収は、結果的に国が寄付金の一部を負担したのと同じ

      ↓

なので無制限に寄付金を損金にするのはダメ!  という理屈になる。

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社長
おおっ!確かに。
寄付金が無制限に損金になれば、比較的簡単に所得を減らしたりってことが出来ちゃうよな。
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小林税理士
ええ。
こう考えると寄付金が寄付した側に課税されるっていうのがわかりますよね。

実質的に贈与したものとみなされる金額

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社長
タダで役務提供をした場合の寄付金の考え方もわかった。
寄付金が寄付した側に課税せれる理屈もわかった。
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社長
で、さっき言ってた「 実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額がある場合」 ってのは、なんなんだ。

低額譲渡・低額貸付・低額の役務提供

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小林税理士
例えば、低額譲渡を例にあげてみますと、資産をタダであげちゃうと寄付金になるんだったら、相手が欲しい資産を購入して格安で相手に売れば、寄付でなく、売買になりますよね?
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社長
確かに。寄付じゃないんだから寄付金扱いにならないと考えるのが普通だよな。
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小林税理士
でも、これが寄付金にならないとこれはこれでおかしくないですか?
例えば、

例)土地を低額譲渡した場合

時価3,000万円

売却価格1,000万円

3,000万円で土地を購入し、知り合い(事業の関係性なし)にその土地を

1,000万円で売却した場合

土地購入時

(借方)土地 3,000万円/(貸方)現金 3,000万円

売却時

(借方)現金    1,000万円/(貸方)土地 3,000万円

(借方)土地売却損 2,000万円

さらに、売却代金1,000万円を売却先の知り合いに寄付したら

(借方)寄付金 1,000万円/(貸方)現金 1,000万円

寄付金の損金算入限度額は0円と仮定する。

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小林税理士
この場合、土地売却損の2,000万円を損金に算入することを認めてしまうと、実際には土地3,000万円を寄付しているのに寄付金として損金不算入となるのは1,000万円だけとなってしまいませんか?
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社長
確かにこれが認められるのであれば、損金に算入できる金額が増えんなら皆この方法でやるわな。
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小林税理士
でも、このやり方って認められると思います?
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社長
そりゃ~、認められないだろう。
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小林税理士
なんでです?
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社長
だって、これ土地の売買というふうにしているけど実態は2,000万円分の贈与(寄付)だろ?
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小林税理士
つまり2,000万円分は実質的に贈与したということですよね。
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社長
あっ!
「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額がある場合 」ってそういう意味だったのか。
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小林税理士
ええ。
ちなみに低額貸付や低額の役務提供なんかも考え方は基本的に一緒です。

「安く」売ったら寄付になるわけではない

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社長
でも、時価より安く売ったからって、寄付になるって何か納得いかないな~。
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いえ、安く売ったから寄付になるわけではなくて、 実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額があれば、寄付金になる可能性があるんです。
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小林税理士
そもそも、いくらで売るかなんていうのは、その会社の自由ですし、資金繰りの都合上、時価を大きく下回る金額で売却したり、遊休資産で持っていても維持費が掛かるので安く売るなんてことはよくありますよね。
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社長
確かにそうだな。
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なので、低額譲渡などで問題となるのは、親会社・子会社間とか会社と役員の親族間などといった特殊な関係があるケースがほとんどです。

贈与の意思は関係ない

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社長
そうだよな。全くの第三者との間で安く売ったからといって、そこに贈与の意思なんて普通ないもんな。
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小林税理士
贈与の意思があるかどうかって、寄付金課税の判断にあたっては関係ないんですよ。
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社長
え?関係ないのか?
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小林税理士
もちろん贈与の意思があって行った取引だと、贈与者側が認めていれば、寄付金になりますが、贈与の意思がなかったとしても 「実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額」があると判断されれば寄付金とされる可能性はあります。
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社長
なんだか、よくわからなくなってきた。。。

寄付金とされないためには

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社長
じゃあ、寄付金とされないためにはどうしたらいいんだ?
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小林税理士
先程もお話したとおり、まったくの第三者間での取引であれば、基本的には問題になることはないと思います。
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小林税理士
問題となるのは親会社・子会社間や会社と役員の親族間などで低額譲渡などを行った場合、「なぜその金額で売ったのか」、「時価とかけ離れていないか」、「かけ離れている場合、その理由は何か」をきちんと説明できるようにしておく必要があります。
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社長
いちいち売却金額の理由なんかを記録に残しておいたりするのって面倒だな。
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小林税理士
ええ。でも社長さん達にとっては、余計な課税を受けないために重要なことだと思いますので、やっておくべきです。
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小林税理士
寄付金の問題は難しいので、また次回もお話させていただきます。